≪始まりは奇病≫

□温泉郷
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彼等の服装に、
身元が判るような
飾りは見当たらない。

真っ黒な男達は
ほぼ無言で勇次を囲み、
圧倒的な腕力で
彼を秘密の廊下から
つまみ出した。


そのまま
裏口まで引き摺られ、
塵みたいに地面へ
投げ捨てられる勇次。

「イテテ……」

無様に半回転し、
せっかく用意した
きれいなスーツを
泥で汚し、
勇次は大男を見上げた。

「酷いなあ、友達に会いに来ただけなのに」


扉を閉めながら、
黒い大男は、
押し殺した声で返した。

「次はないです。宮越さん」

ばかに丁寧な口調だった。

重たく扉が閉まり、
勇次は
ゆっくり起きあがると
スーツの泥を払う。


横目で確かめたボックスに
正規の門番は見当たらなかった。

……休憩か?

ちらりと
腕時計を確認したついでに、
塀に乗っかった
防犯カメラに手を振り、
勇次は多少
足を引きずるようにして
建物から離れていく。




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