≪始まりは奇病≫

□‘劇薬D’
1ページ/9ページ


行方不明になった友人は、
ある研究所の学者だった。

そこは表向き
民間企業の看板を
掲げていたが、

その内容はダークで、
背後には国が
見え隠れしていた。



最後に彼と会ったのは
半年も前の事だ。

「君は意外とモラリストだったんだな」

酒の席で友人、遠藤が笑う。

勇次は考えながら、
ゆっくりと喋った。

「モラルの話じゃない。内容が危険すぎるんじゃないかと、思っただけさ」

「大丈夫。危機回避策は何通りも考えてある。今度の首相は関心が高くてね。補助金がたくさん出るんだ。研究所が、やるなら今しかないって感じに盛り上がっているよ」

多少の酔いと、
相手が勇次だからか、
遠藤は良く喋った。

「それにしても、良くこんな大手の新聞社に入れたね」

カウンターに置かれた
小さな長方形の紙を
数回引っくり返して、
遠藤は関心したように
そう言った。

「……新聞記者がどんな名刺を使っているか、なんて、誰も気にしないよ」

「はは……!そういう事か。モラリスト発言は撤回だな」

楽しそうに笑う遠藤。

「まあ、でも。貴重な話が聞けて良かったよ」
「今度の臨床実験が終われば一段落なんだ」

友人の目が
研究者のそれに変わる。

「そうしたら暫くは南国でバカンスかな」
「……良いご身分だな」
「一緒に行くかい?」
「……いや」

勇次は
残り少ないグラスの中味を
一気に呑んでから言った。

「俺は遠慮しとくよ」




.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ