≪始まりは奇病≫

□新聞記者
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一人の新聞記者が、
いつもと変わらず
機能する大病院を、
見上げるようにしてから
入っていった。


茶色のスーツは
あまりクリーニングに
出さないようで。

上着はしわしわ、
スラックスはよれよれ。

彼は受付に近寄った。


午後の診察が始まる、
少し前。

「こんにちは。院長は、上?」

気さくな笑顔で
馴れ馴れしく話しかける。

院長とは
旧知の仲かと思う。

若い受付嬢は、
営業スマイルで
優しく聞き返した。

「お約束はされていますか?」

「あれ、そちらから電話もらったんだけど、聞いてない?」

「かしこまりました、すぐに確認いたしますね」

受付嬢は
笑顔の裏の警戒心を
解くことなく、
手元のマウスを
操りはじめた。

その薄化粧した横顔を
見つめながら、
記者が
囁くように言った。

「999号に運ばれた患者だけどさ」





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