≪始まりは奇病≫

□後継者
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海外の、
小さな空港で起きた
小さな事件がその後
扱われるはずもなく

『トオル・エンドウ』

という姓名だけが
翌日小さく報道された。

北の大地で、
杏子は一人旅を続ける。


相棒は、居ない。


これ以上巻き込みたくない。
君が死ぬのだけは耐えられない。

勇次はそう言って
来た道を引き返して行った。

「まだ、何も言ってないのに」

車窓から見える景色が一定で
杏子は独り言を声に出す。

広すぎる畑、
白樺の防風林、
赤や青の屋根がついたサイロ。

朝日も夕陽も
もう何度見ただろう。

壮大で美しい自然が
今の杏子には虚しく映った。

「今は、どこに居るの。勇次」

探すな、と、強く言われた。
勇次との繋がりを一切消せ、と。

ほとぼりが冷めるまで、
じっとしていた方が良策だ。

そんなのは解っている……。

理解したって、
納得できないことは
世の中にたくさんあった。





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