≪始まりは奇病≫

□暗闇
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「どうしたんスか〜」

車を降りた勇次は
キャップを深めに被り
音を立ててガムを噛む。

派手な下着が半分見えるほどずり下げた
迷彩色の緩いハーフ・パンツ。

本来の年齢より十歳は若く見えた。

「通行止めみたいですね」

研究所へ続く山道は
あの温泉郷にも繋がっている。
その入口に、
工事用のバリケードが設置されていて、
その前で数台の四駆車が立ち往生していた。

「ええっ」

大げさに驚く勇次。

「この先っスよね、秘境温泉」

家族連れのような男性が
運転疲れの顔で頷く。

「私達もそこへ行く予定だったのですが」

傍に立っていた若い女性のグループが
やり場のない怒りを露わにする。

「あたし達も、泊まりに行く予定だったんだけどお」
「でもさ、宿の方からは何の連絡もなかったよね」
「ここまで来て、行けないとか、ないわあ」

文句を言いながら、
値踏みされるような視線を感じる勇次。

「まじっスか。崖崩れか何かかなあ」

同年齢と判断したのか
女性グループは気さくな態度に変わった。

「そんなの、聞いてないしい」
「ていうか、これだけ置いて誰もいないとか」

元気の良さそうな女の子が
黄色と黒のA型バリケードを蹴っ飛ばす。

「ここまで来て帰るのもなあ」
「あ。誰か来たみたいです」

男性がバリケードの向こう側を指差した。
白いワゴン車が坂を曲がって停まり、
警備員の制服を着た数人が降りてきた。

「……バラドじゃないか」

勇次の呟きは
車内待機中の杏子に届く。

『気を付けて』

耳の中に声が返った。





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