≪始まりは奇病≫
□真実
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「体調は、どうなんだ?」
遠藤が待つ病室へ来るなり
勇次は心配を隠さずに訊いた。
「微熱程度だ。症状としては初期の段階だな」
ベッドの縁に座る遠藤が答える。
「でも、ワクチンは完成したんだろう」
室内を観察しながら
勇次は立ったまま遠藤の顔を見た。
「凄い剣幕で尻を叩かれたよ」
薄く笑い、遠藤は
これまでの経緯を全部話してくれた。
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「君が病院で見た患者は、この研究所の新人だったんだよ」
「亡くなった三人とも?」
「そうだ」
事故が起きたあの日は
埜田総理の遣いが来ていた。
研究の進行状況と補助金の話だったので
遠藤を含めたベテラン勢は
実験動物の世話を
新人に任せて会議室に移動した。
「警報が鳴ったのは会議を始めようと、席に着いた時だったよ」
当時を思い出しながら
遠藤は時々辛そうなため息を吐く。
「慌てて戻ったが、いろんな事が遅かった」
実験に使う蚊を
大量に繁殖させていた温室の扉が
開いたままになっている。
逃げようとして叶わなかった
新人研究員に
大量の蚊が群がっていた。
服を着ていない
むき出しの部分が
小さな虫で真っ黒になっていく。
「恐ろしい光景だった」
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