≪始まりは奇病≫

□リベンジ
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「ごめんな。君を見捨てる形になるけど」

そう言いながら勇次は
捕虜の手足を縛り直し
目隠しをする。


やがて車が停まった。


やけにはっきり聞こえる
町の雑音。
ひんやりとした夜風が
男の身体を包む。

「これはプレゼント」

勇次の声が聞こえ、
縛られたままの手のひらに
金属製の何かが持たされた。

「頑張って、逃げ切ってくれよ」
「どういう意味……」

半分担がれるように
車から降ろされ、
コンクリートの上に
座らされた感覚。

「じゃ、行くから」

声と気配はすぐに消えた。

走り去る車の
排気ガス臭を感じながら、
解放された捕虜は
渡された小道具で
拘束具を切り離す。

急いで目隠しを外したが
もちろん車など判別できず、
いや、それ以前にここは。

「何者なんだ、あの番頭」

回転する赤いランプ。

駐車場には白黒の車。

温泉郷から
山を降りた中心街の、
ここは警察署だった。

「そうだ。本部に報告を」

我に返り、
バラド警備の派遣社員は
胸から携帯電話を取り出す。

「電池切れか?」

真っ黒な画面に
憔悴した己の顔が映っている。

PWRボタンの反応がなく、
彼は携帯電話を引っくり返し、
声を出して笑った。


携帯電話は、
電池パックが抜かれていた。



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