≪始まりは奇病≫
□捕虜A
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頭のバンダナを
海賊巻にした猫背の番頭が、
急速に暮れ始めた
温泉郷の坂道を
小走りに下っていく。
急な雑用を言いつけられ、
少しばかり焦った様子で。
黒スーツの男達が二人三脚で
宿や路地を片端から
嗅ぎ回っていた。
土産物屋は不審がり、
警戒心むき出しの目線を送る。
「すみません。こういう男性を見かけませんでしたか」
店主の気持ちなど完全無視で、
黒スーツは
懐から写真を一枚取り出す。
「判んないよ。観光地だよ、ここは」
「そうですか」
「何。何か事件?」
不審感が好奇心に変わる店主。
「すみません。そこはノーコメントで」
「あっ、じゃあさ、その人を見かけたらどこに連絡すればいいの?ケイサツ?」
「いえ」
黒スーツは控えめに首を振った。
「警察は関係ありません」
「ああ、そう」
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