06/19の日記

00:53
それぞれの夏休み―間桐―
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「おーい!そっちはどうだー?」

「…」

「終わったって。おじさん」

「わかったー。ピークすぎたから先に休んで」

「うん。ランくん、お昼にしよう」

桜は彼の大きな手を引き二階に向かった。
ここは商店街の一角にある小さな和菓子屋さん。
雁夜と桜が身一つで逃げ出して来た時に引退予定だった老人がただ同然で貸してくれたのだ。
一階が店、二階が住居になっており現在桜、雁夜、バイトの三人で暮らしている。

「暑いね」

「…」

彼は答えず小さく頷く。
桜は扇風機を回し台所に向かった。
彼も続き隣に立つ。
冷蔵庫を開ければ中には冷やし中華セットがあった。
朝に雁夜が具材を切ってくれているので後は麺を湯がくだけである。
鍋に水を張り、ガスをつける。
桜が作業をする横で彼は黙って見守っていた。

「ランくん。嫌いな具、ある?」

「…」

じぃとキュウリを見つめる彼に桜はうんうんと頷いた。

「わかった。ちょっと減らしておくね。代わりに桜のトマトあげる」

ひょいひょいとすかさず嫌いな具同士を入れ換える。
彼は少しだけ、少しだけ笑った気配を見せた。
その証拠に桜の頭を軽く撫でた。

「おーい。ご飯食べてるかー?」

「うん。今から」

「おじさんも食べるよ。今日は暑いからあんまり人が来ないし」

「うん。わかった。用意する」

雁夜はまだ固形物をしっかり食べれないので大半はお粥ベースの柔らかい食事である。

「…って、お前ら具の配分おかしくないか?」

「「…」」

台所に寄って、明らかにキュウリが多い桜の皿とトマトが多い彼の皿をみて雁夜が呆れた。
黙りを決め込む二人に雁夜は苦笑した。

―まあ、好き嫌いができるのも進歩か

感情を無くした少女と感情を壊した青年。
そんな彼らが食べ物の好き嫌いを表すのが雁夜はほっとしたのだ。

「わかった。交換してるだけいいよな。でも少しは頑張って食べろよ」

「うん。頑張る」

素直に首を振る桜を雁夜もまた頭を撫でた。
彼と雁夜に撫でられて桜は嬉しく思った。
表情にはでないが柔らかい雰囲気が彼女を包む。
雁夜は全然気がつかなかったが彼はそんな桜を見て静かに頷いた。

「よしっ。午後も頑張ろうな。いただきます」

「いただきます」

「…」

カラン、カラン。
風鈴の音を後ろに雁夜一家は皆でお昼を食べるのであった。

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