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□海に行こう―当日―
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―当日。
切嗣が運転するワゴン車がアーチボルト家に到着。
家の中から出てきたクーとディルムッドは複雑な顔をしていた。
「おはようクー!さあ行きましょ♪」
「あー…すみませんアイリ夫人。ケイネス夫妻が行けなくなりまして…」
ドッカーン!
ベキベキッ!
゛ソ、ソラウー!゛
「…」
クーが言葉を濁すが家の中から不穏な音が響き渡る。
アイリスフィールはすかさずイリヤの耳を塞ぎ会話を続けた。
「…そ、そう。残念ね」
「なんで、どうかディルだけ連れてって下さい!!」
「!?クー兄さんそれは…」
「うるせぇよ。つべこべ言わず乗れ、そして行け」
車にディルムッドの荷物を放り込むとクーは渋るディルムッドをに囁いた。
「…水着」
「っつ!!」
固まったディルムッドを車内に押し込みアイリスフィールとさりげなくアイコンタクトを交わした。
「じゃあなー。いってこーい」
「恩にきります!」
「じゃあねー!!くー!!」
ディルムッドが心配そうな顔を見送ったクー。
家からは鉄板入りの机がぶっ飛ぶ音がしている。
「…暑いのに元気だよなぁ」
ちょっとくたびれたサラリーマンのようなぼやきを洩らすクー・フーリンであった。
※※※
車は数時間走り海に到着した。
女子組は着替えに行ったので切嗣とディルムッドの二人が場所取りをしていた。
―気まずい
非常に、気まずい。
教師と言えどもミスター無視の切嗣。
もちろん会話などあるわけなく。
ディルムッドはとりあえず海を眺め、切嗣はタバコを吸っていた。
「…」
「…」
「…あの。お尋ねしたい」
「…」
ディルムッドが思い付いて口を開いた。
よくよく考えた所、このように二人っきりという状況は珍しく、貴重だと思ったのだ。
無視されても構わないので日頃ずっと疑問だった事を聞いてみた。
「貴方は何故セイバーをそんなにも嫌うのです?」
「…」
煙が揺れる。
ディルムッドは切嗣を見て答えを待つ。
しかし答えは返ってこず。
諦めて海に視線を戻した。
「……似てる、からだ。似ていて、嫌いなんだ」
「え、」
突然の回答に驚いて切嗣を見る。
しかし彼は何もなかったかのように紫煙を燻らせていた。
―似ている?
セイバーと、切嗣先生が?
あまりのかけ離れた二人の何が?
ディルムッドは切嗣の過去に一体何があったのだと眉を寄せたのだった。
「あ、切嗣ー!ランサー!お待たせ〜♪」
アイリスフィールの明るい声にディルムッドははっ、と顔を上げた。
そして視界に飛び込んできた予想以上の光景に色んなものがぶっ飛んだのだった。