□冬の記憶
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去年の冬は寒かった。
ディルムッドにはその冬、二つの記憶がある。

アルトリアの悲痛な声とギルガメッシュの孤独な後ろ姿。

年を越えて数ヶ月、彼は見てみぬ振りをしていたのだ。
彼にとって何気ない日常の方が大切だったから。
だが、時間がそれを許さない。


―球技大会前日。

「うわぁぁあー…もう、やだぁ…」

「ウ、ウェイバー…大丈夫か?」

「ダメだ…もう、うごけなぃ…」

「…」

机に突っ伏すウェイバーをみてディルムッドは可哀想だと思った。
ウェイバーがぶっ倒れている理由はイスカンダル先生だ。
先生は就任早々体育総代戦に出馬すると宣言。
その後各部を挨拶がてらに果たし合いをしたのだ。
長刀部にも来た。
他の部は知らないが…クー兄さんは非常に喜んでいた。

「なんで僕がこんな目にぃ…」

「…ウェイバー、俺が抗議しようか?」

見かねたディルムッドが提案したがウェイバーは弱々しく首を振る。

「いい…乗りかかった船だし…皆を見返すチャンスなんだ…」

ディルムッドはウェイバーの姿をみて微笑んだ。

「そうか。手伝える事があれば言ってくれ。力になろう」

「ありがと…。あ、ディルムッドの方はどうなんだよ」

「ん?」

「明日の球技大会だよ。あいつらと戦うんだろ?どうするんだ?」

「どうとは…。互いに全力で当たるだけだが」

「じゃなくてさ。お前は、体育総代戦には出ないのか?」

ウェイバーはディルムッドを見た。
ディルムットは目を見開いた。
そんな事考えた事がないといったようだ。

「俺が、総代?」

「ああ。去年も結構票入ってたじゃないか。今年頑張れば取れるんじゃないか?」

ディルムッドは困った顔をした。

「…ま、アルトリアがなりたがってるし。ディルムッドはそっちの応援だな」

ウェイバーはディルムッドの困惑をそのようにみた。
アルトリアの事が好きなディルムッドはずっと彼女を応援をしていたからだ。

「俺は…」

ディルムッドはいいよどんだ。
その先の答えを彼はまだ決めていない。
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