紙の切れ端
□聞こえなかった言葉
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私が縁側から裏庭を見ていると
ふ、と目にとまったのは数枚の花弁を散らした一輪の白い花
連想されたのは……、一年前に逝ってしまったあの人
あの人は最後に、聞こえない声で何かをおっしゃっていた…
気がつくと履物も履かずに花に近寄り見つめていた
《ザッ》
視界に誰かの足が入り顔を上げると
「やぁ、久しぶりだね」
あの人がいる
私が恋焦がれていたあの人が…
名前を呼びたい、なのに声が出せない
「君には前を向いて生きてほしい。 何時までも僕を見ていては駄目なんだ」
私の頬に伝う涙を拭いながら、あに人は言葉を紡ぐ
「君の側には沢山の人がいるんだよ? 一人で抱え込まず皆を頼るんだ。 最後に…、」
強い風が吹き顔を伏せ、次に顔を上げた時には誰もいなかった
先と違ったのは手の中にある一枚の白い花弁と…、聞こえなかった声が聞こえたこと
《最後に、僕は君を愛しているよ》
その言葉に、また一粒の涙が頬に伝った
・20121106