玩具 ━ オモチャ ━
□暗影
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(浩二ッ…!!)
心の中でその名を叫んだ和則が我に返る。
(な、なんだ…夢か…)
小さく溜め息をつくと、和則は目の前のベッドに視線を移す。
「浩二…」
ベッドに眠る浩二の手を取り小さく呟く和則の瞳に涙が浮かぶ。
「目を覚まして、浩二ッ…お願いだからッ…」
やがて和則は身体を震わせ小さく泣き始めた…
― 俊に傷つけられた浩二が意識を失った後、和則は言われた通り榊に連絡をした。
「かしこまりました和則様、すぐそちらに向かいますので!」
状況を把握したのか些か動揺しながらも取り乱す事なく対応する榊への電話を切ると、和則は小さく泣きながらも立ち上がる。
浩二との約束通り俊が凶器にした煉瓦を拾うと、中庭の手洗い場に行きそれを丁寧に洗った。
花壇の元の位置にそれを直すと、和則は浩二の元に駆け寄りハンカチを取り出す。
「浩二しっかりしてッ…しっかりしてッ…」
涙を流し続けながら必死に浩二の頭の傷をハンカチで押さえ介抱する和則の元にやがて榊が駆けつけると、和則は榊と共に病院へと向かう。
「あ、あの榊さん…浩二がッ…浩二がこの事は公にしないでくれと麻生の伯父さんに言ってほしいって…」
「…かしこまりました。」
ハンドルを握り前を向いたままの榊を見る事なく下を向いたままそう告げると、和則は自分の膝に頭を置き眠ったままの浩二を見つめる。
(浩二ッ…)
唇を噛みしめる和則の白い頬を、涙が再び伝い落ちていた…
緊急のオペが終わる頃、病院に隆之が姿を現す。
「ご苦労様です、会長…」
深々と頭を下げると、榊は隆之に小声で話し始める。
隆之は終始顔色を変える事なく榊の話を聞いていたが、やがてゆっくりと歩き出すと長椅子に座り俯いたままの和則に静かに言った。
「榊から大体の事は聞いた…お前は本当に何も知らないのか、和則…」
その言葉に一瞬戸惑いながらも、和則は小さく口を開く。
「…はい、ごめんなさい…」
「そうか、分かった…」
再び悲しそうに俯く和則にそう言うと、隆之は横に座り和則の髪をそっと撫で始める。
「伯父さん…」
顔を上げ潤んだ瞳で見つめる和則に、隆之が優しく微笑む。
「大丈夫だ和則…浩二の意識は必ず戻る、オペは成功したのだから。だからもう心配しなくていい…明日も学校があるしお前の父親もそろそろ帰宅する頃だ。浩二の事は私に任せてお前はもう家に帰りなさい、榊に送らせるから…」
途端和則は隆之にしがみつく。
「嫌ですッ、俺今日は帰らないッ…お願いだからここにッ…浩二のそばに居させて下さいッ!!」
「和則…」
「お願い伯父さんッ…伯父さんッ!!」
そう訴える和則に隆之が笑顔を向ける。
「お前は本当に優しいな…」
和則の瞳から零れ落ちる涙をそっと指ですくい、隆之が口を開く。
「お前は本当にいい子だ和則…優しくて美しくて愛らしくて…お前にこんなにも想われて浩二は本当に幸せ者だ、羨ましい位に…」
隆之がそっと和則を抱きしめる。
「お、伯父さ…」
「浩二の伯父として私からも礼を言うよ、ありがとう和則…」
「伯父さん…」
囁きながら優しく髪を撫で続ける隆之に、和則が小さく笑みを浮かべる。
隆之はしばらく和則を抱きしめていたが、やがて身体を離すと再び笑顔を向けた。
「お前がそこまで言うなら好きにしなさい、お前の父親には私から連絡しておく…それから部屋をひとつ使える様ここの人間に言っておくからシャワーやベッドも自由に使いなさい。それと榊を付き添わせるから、用があれば何でも言いつけなさい。」
隆之がそう言い立ち上がる。
「無理せず眠たくなったらきちんと睡眠を取るんだよ、分かったね和則…」
「はい、ありがとうございます伯父さん。」
「ではおやすみ和則…榊、後は頼んだぞ。浩二に何か変化があればすぐ連絡しなさい…」
「承知致しました、会長…」
集中治療室の中で眠る浩二の姿と深々と頭を下げる榊を見届けると、隆之は秘書の三國と共に病院を後にする。
再び榊と二人きりになった和則は、眠り続ける浩二の姿を心配そうに窓越しに見つめ始めた…