玩具 ━ オモチャ ━

□裏切り
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暦は5月になっていた…



大型連休に入り、巷は休日を楽しむ人々で賑わう。

そんな中和則は休日中も家から出る事はなく、日々を愛犬と共に過ごしていた。


病院であったあの出来事以来浩二は和則の前に姿を見せる事はなく、退院して自宅療養に替わっても連絡ひとつ来る事はなかった…




休日の間は虐められる心配はないと安堵しながらも、何故か和則の心には時々浩二の事が思い浮かぶ。


(浩二、今何してるのかな…)


浩二の文字が並ぶあのノートを見つめながら思いかける自分に、和則は慌てて顔を横に振る。


(俺、また浩二の事なんか考えて…浩二は俺を虐めて楽しむだけなのにッ…)


そう思い直しかけた和則の目に、部屋の壁に掛かったカレンダーが映る。
おもむろに立ち上がると、和則はカレンダーの前に立つ。


(明日は5日…俺の誕生日…)


そう思いながらカレンダーの『5』の文字をそっと指で撫でると、和則は本棚の前に移動する。


一番上の段のガラス戸をそっと開けると、部活動や水泳大会でもらったトロフィーと一緒に並べていた小さな硝子細工の置物を手に取った。




(浩二…)




和則が無意識にソレを抱きしめる。









― 浩二と出逢ったばかりの頃、浩二の部屋に遊びに行った和則は机の片隅でキラキラ光る二つの置物に目を奪われた。




『浩二くん、これなぁに?すごく綺麗だね!』


瞳を輝かせそう尋ねる和則に浩二が言った。


『…それはステンドグラスで出来てて俺の父さんが作った…父さんと母さんの形見なんだ…』

『…そうなんだ、ごめんなさい…』


わずか八歳で両親を失い伯父の家に引き取られた浩二…
和則は子どもながらに胸を痛める。
しかしそんな和則に浩二は意外な言葉を言った。




『お前がそんなに気に入ったんならひとつお前にやるよ…これ、幸せになれるお守りなんだ…』

『えっ…でも…』

『これは父さんが母さんといつまでも一緒にいられる様にって作った物なんだ…ほらこれ、パズルみたいに10個のピースに分かれてるだろ。父さんと母さんは毎年このピースをひとつづつ、お互いの誕生日に交換しあってた…いつまでもいつまでも一緒にいられますようにって…』

『なんかそれステキだね!浩二くんの御両親、本当に素敵な人達だったんだね!』

『あぁ、だからひとつお前にやる…それは母さんが父さんに贈っていた物なんだ…』

『えっ、浩二くんのお母さんが…でも本当にいいの!?』

『あぁお前にやる。その代わり約束してくれないか?俺達もこれから毎年お互いの誕生日に1ピースづつ交換するって…俺達、今8歳だろ?だから18歳になるまで、毎年交換してくれないか?』

『うん勿論だよ、約束する!』


嬉しそうにソレを抱きしめ頷く和則を浩二が優しく抱きしめる。


『10個のピースをすべて交換し終わって完成したら二人は離れる事なく永遠に一緒に居られるんだって父さん達が言ってた…俺はずっとずっとお前と一緒に…一緒に居たい。だから毎年必ずお前の誕生日にこのピースを送るよ、和則…』






それから毎年、二人はお互いの誕生日にひとつづつ交換し合っていた。
必ずお互いの誕生日は二人で過ごすと約束して…










(俺は明日で17歳、ピースは後2つ…でも浩二はもぅ昔の優しかった浩二じゃない。きっともうあの時の約束も忘れちまってる…)


「結局未完成なのかな、コレ…なんだか浩二の御両親に悪い事しちまったな…」


そう呟くと和則はそれをそっと元の場所に戻す。




(やっぱりもぅ俺達は、元には戻れないのかな…)




そう思いかけふと時計を見ると、夕方の5時近くになっていた。


「太郎の散歩に行かないとッ…」


そう言うと和則は部屋を後にし階段を駆け降りていった。
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