凸の悩み凹の憂欝

□君の棲む箱
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放課後になり、俺達3人は帰り掛け、駅の近くにあるファストフード店へ立ち寄った。

金曜の放課後だからか、店内は自校や他校の生徒で混み合っている。
2階に3人分の席は無く、かといって喫煙席に座るのは細木が良い顔をしない。だから仕方なく1階にある窓際のカウンター席へ座った。

「ああ、マジで腹減った。そのナゲットとシェイクは俺のだからな、早く食おうぜ」

「お前ってさ、小粒のわりによく食うよな」

「小粒とか言ってんじゃねえよ。俺より僅かにデカいからって偉そうに。だいたい、見た目で判断し過ぎなんだよな」

歯に衣着せぬ2人のやりとりは面白い。放っておいても勝手に喋るので一緒にいるのは楽だった。
中学生の時は、何を考えているのか分からないと友人によく指摘されたが、この2人は俺がどんなに物思いに耽ろうがお構い無しだ。
指摘どころか、そこが俺の良いところなんだと受け入れてくれる。本当に有り難く、貴重な友人だ。

「おい、あれ見ろよ」

腹も満たされ落ち着いた頃、小島が顎をしゃくった。
目の前は一面のガラス張りで、街路樹や外を歩く人間がよく見える。小島に言われて顔を上げると、道路の向こう側を華やかな集団が歩いていた。
頭一つ抜き出ているからすぐに久角敦也だと分かる。ポケットに手を突っ込みダラダラと、その歩き方は此処だけではなく、教室でも体育館でも校庭でも同じだ。

黒髪や茶髪の、女子や男子の取り巻き達を引き連れて歩く姿は、確かにどこぞの王様のようだ。談笑し、浮き足立つ群れの中で女子の1人が久角の鞄持ちをしている。献身的な従者だ。

「げっ、こっち見た」

小島が首を縮めた。まず、奥寺が俺達に気付き久角敦也に何かを囁く。すると久角が振り向いた。
じっとこちらを見たかと思えば、次には唇の端を持ち上げた例の笑みを浮かべる。

「見たかよ、あの俺様な面」

「笑ってやがる。なんか文句でもあんのかよ。マジでムカつくな」

「放っておけって。あいつの嘲笑は今に始まった事じゃないんだし」

「そうだけどよ。俺は住臣みたいに大人になれないよ。ムカつくもんはムカつくんだから」

笑われて良い気などしない。それは俺も同じだ。
けれど怒ったって仕方が無い。クラスメイトといったって喋りもしない、当たり障りの無い関係。拳を振り上げでもしなければ何も変わらないのだ。

暴君がいたって、自分に害が及ばなければ見て見ぬふり。皆、愛想笑いを面に着け、表面上で旨くいっていればそれで良い。
一致団結、みんな仲良し、テレビで見掛ける青春ドラマとは程遠い世界だ。


「もし久角の身長と顔で生まれたら、俺は絶対女子を大事にする。荷物持ちなんてさせないのに」

「また始まったよ、小島の『もし』が。いいか、あの女は持たされてるんじゃなくて持ちたいんだよ。久角の鞄なら何キロあったって持つんじゃねえの。これがお前のなら即刻捨てるだろうけどな」

「そんなの言われなくたって分かってるよ。うるせえな」

羨むだけ嫉妬も大きい。同学年の中でも一際大人びている久角に比べ、小島は背も低く童顔だった。
女子から見れば格好良いより可愛い部類に入る。だから小島でも小島君でもなく、こじりんと呼ばれ頭を撫でられる。
久角は敦也、小島はこじりん、それも気に入らないらしい。

「まあまあ機嫌直せよ。お前だってこれからなんだし、可愛がられるのも手だぜ。今ある環境を否定するんじゃなくてさ、受け入れた方が楽しいだろ」

へそを曲げた小島へフォローを入れる細木も、先日彼女と別れたばかりだ。
テニス部の後輩だったが、常に楽観的ですぐに茶化す細木の癖が受け付けなかったらしい。もっと真面目に付き合ってくれる人が良いと、振られたのだ。


「母性本能をくすぐるってのも、ある意味武器だぜ。今は女の方が積極的だからな」

「そうかなあ」

「桂吾なんて見てみろよ。こんな顔で彼女の1人も居ないんだから。いくら面が良くたってな、近寄りがたいってのも駄目なんだ」

「なんでそこに俺が出てくるんだよ。変な例えにするなよな」

「はははっ、事実だろ。ほら、早く食って小島んちへ行こうぜ」

自身も傷付いているのに、こうして小島を慰める。
俺が風邪気味の時にはビタミンCドリンクを机の上へ置いてくれたり、部活がある日も無い日も、小島の家へまめに足を運ぶ。

軽いと誤解される細木だけれど、友達思いの優しい奴だ。
数ヶ月付き合った細木の彼女に、それが伝わらなかったのが残念でならない。



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