お話部屋

□残酷な夢
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――チチ、チチ……



聞き覚えのある、懐かしい声が自分を呼んでいる。



―チチぃー




少し語尾を伸ばして愛おしげに自分の名前を呼ぶのは、彼の癖だった。



そして、それを聞くのがチチは好きだった。





「悟空さ!!!」



気がつくとチチは叫んでいた



悟空さ!!
ようやく会えただ!!




遅かったべ!!
おら、ずっとずっと待っていただよ
悟空さがおらを迎えに来てくれるのを



悟空さ
悟空さ
悟空さ!!!!!



一緒に連れて行ってくれるんだな?
もう、おら、悟空さと離れたくない・・・・!!





愛する夫が、自分の腕をとり、ともに空高く舞いあがろうとした……


















その瞬間……




夢から醒めた。
















そう、これは夢だ。夢なのだ。




彼が自分を迎えに来てくれるのは……
今じゃない。
彼が自分を迎えに来てくれるのは、
自分がこの世での生を全うした時だ。


彼がこの世に遺した、彼の生の証―
二人の息子たちが大人になって、幸せに幸せになったのを見届けた時だ。

もう、自分がいなくても二人の息子が幸せに生きていけるようになったと自分が心から確信でき、安心した時だ。




あの日、悟天をこの体に授かったことを知った時に、おらは決意したんだ。


それまでは、
前を向いて精一杯生きて行くって。
悲しみだけの涙を流さないって。





でも――――



何年経っても、気がつくと想ってしまっている。



悟空さに会いたい
声が聞きたい
悟空さの温もりを感じたい   と。






だからこれは、
幸せな夢。
あなたが迎えに来てくれたのだから。
あなたが自分の名前を呼ぶのを聞けたのだから。
あなたの温もりを感じられたのだから。









チチは窓辺に佇み、夫が在るであろう空の彼方を眺めながら自分にそう言い聞かせた。












この夢は、幸せでいて・・・・


なんて残酷な夢なのだろう。


あなたの声が、
温もりが
この体に蘇ってくる……。









だけど……
どんな残酷な夢でもいい。

―――あなたの声が聞けるなら。
あなたの温もりが感じられるなら―――

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