お話部屋
□KISS☆
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「・・・・・・。
張り切りすぎただ・・・・・・。」
そう呟くと、チチは大きなため息を一つついた。
そんじょそこらのコックには、負けない位の腕前を持つチチ。
そんな彼女でも失敗することはたまにある。
だけどそれが、一年に一度しかない日、しかもよりによって七年ぶりに迎えるその日でなくてもいいではないか!!なんで今日なのだろうか。
「はあ・・・・・・」
チチはもう一つため息をついた。
そう、今日は2月14日。
バレンタインデーなのである。
食欲旺盛、なんでも美味しく食べることのできる、いや、食べられるものなら何でも美味しく感じるんじゃないかと思うほど大食漢の彼女の夫は、彼女の作る特大のチョコレートケーキが殊のほかお気に入りだった。
が、おかしな話だが、そんなにお気に入りのチョコレートケーキなのにも関わらず、それを彼女の夫が食べるのはバレンタインの日だけだった。
ものごとにこだわらない性分の彼女の夫であったが、彼の中では「チョコレートケーキ=2月14日」という図式でもできあがっていたのだろうか。とにかく食べるのはその日と決めていたようだった。
だからチチも、毎年腕によりをかけて作っていたのだが・・・・・・。
当の本人があの世にいってしまった七年前から、チチがチョコレートケーキを作ることはなくなった。
もちろん、可愛い息子たちのためのチョコレートは作り続けていた。
でも、それはあくまでも「息子たち」用のものであって・・・・・・。
夫の好きだったチョコレートケーキを作るのは、やっぱり心のどこかがズキンと痛んで。
胸が苦しくなってやるせなさがこみ上げて来て・・・・・・
―――切なくなって泣きたくなる・・・・・・。
不思議なことに、チョコレートケーキ以外の
夫の好物だったものは何なく作ることが出来た。
中華ちまきにパオズ山ザウルスの肉炒め、豚の角煮、七色ウナギの茶碗蒸し。
なのになぜか・・・・・・
チョコレートケーキだけは無理なのだ。
涙があふれそうになる・・・・・・。
だから。
七年前から作ることはなくなっていた。