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□馬鹿な子ほどかわいい
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うぅ…、これもわからない。
私がそう思うたび、プリントの空白が顕著になっていく気がした。
『おい、埋めろよ。埋めてくれよ』
問題からその言葉が聞こえてくるようなそんな錯覚に苛まれたけど、スルーを決め込む。
ごめん、私には無理なんだ。
未来の私がきっと埋めてくれるよ、だから待ってて!!
そんなバカみたいなことを考えながら、次の問題へと進む。
あ、この問題はわかるかも…。
授業でやってたよね。
数時間前の記憶を引っ張り出して、必死に回答欄の上にある空白部分を埋めていく。
これで先ほど埋まっていなかった部分の穴埋めができているとは思ってないけど、わからないものはわからない!
「何やってんの?」
「わぁ!?」
いきなり声をかけられたと思って上を見上げれば、人差し指を口元に当てて「しーっ」のポーズをとる花礫くんがいた。
それに気づいてあわてて口をふさぐ。
だって、図書館で騒いではいけないもの。
常識中の常識だ。
「課題か?」
小さい声で花礫くんが訪ねてくる。
花礫くんの声ってかっこいいよね…イケボってこういうのをいうのかなぁ…。
「うん、そう。花礫くんは……」
右手に本を持っていた。
難しそうなタイトルだと思ってみれば、もはや日本語でもない。
洋書なんてあったんだうちの高校。
「それ、なに?」
「何だと思う」
「ええ、わかんないよ。英語嫌いって知ってて聞いてるでしょ」
「さぁな」
意地悪に微笑む花礫くん。
やっぱりそうなんだ。
「とりあえず、花礫くん座ったらどうかな?」
「そうだな」
そう言って私の向かいの席に座って本を読みだす花礫くん。
一挙一動の姿がきれい。
スタイルいいし、顔だってきれいだし、花礫くんは無愛想なところがなければモテそうな雰囲気がある。
というか絶対モテるはず、なんだけど。
まともに口をきく人が花礫くんは少数だから「怖い人」だと勘違いする人も多い。
実際はただの勉強と読書が好きな善良な人なんだけど。
なんて考えながら花礫くんを見てると「何?」と綺麗だけど鋭い瞳で見られて萎縮してしまう。
うう、ごめんなさい。
「課題、やんねーの」
「や、やるよ!」
先ほど解きかけてた問題に取り掛かろうとすると、一瞬「あれ、こんな問題だったっけ」と思ってしまった。
どうやら、わからないといって飛ばした問題みたいで、危うく一問飛ばして解くところだった。
「そこ、なんで空いてんの」
花礫くんの長い指が指差したのは、私が飛ばした上に間違えた答えを書きかけた空欄。
「わかんないの、聞かないで」
「ふーん」
そう言いながら本を閉じて、こちらに向き直りながら頬杖をついて、
「こんなんもわかんないって、よく生きてこれたなお前」
そう言った。
さすがにちょっとカチンときた。
「そ、そこまでいう!?」
「だってこの高校でそれわかんないって死んだも一緒じゃね? 赤点必須じゃん。赤点のこと皆死んだっつってなかったっけ?」
俺の間違い?
そう聞き返してくる花礫君に言葉も出ない。
確かに間違いじゃないけど。
「でも今の言い方はちょっとひどいよ」
「悪かったって、そんな怒んなよ」
「花礫くんって本当に口が悪いよね」
「イマサラ」
自覚してるのに治す気ゼロだ……。
だめだこの人。
「これは、教科書載ってる」
「え、嘘」
「こんなんで嘘言っても得しねえよ。確か、58らへん」
「ページ数まで覚えてるの!?」
優等生怖い!!
何!? なんでページ数まで覚えてるの? これで行数覚えてたら、かっこよすぎるんですけど!
「12行目」
「うっそ、本当に覚えてた!?」
「嘘」
…………。
じと目で睨めば普段見せない笑顔が見られた。
その笑顔で許されるなんて思っちゃダメなんだからね!
「花礫くん、私いじめて楽しんでるでしょう」
「楽しいっつーか。あれじゃね?」
「どれ?」
「馬鹿な子ほどかわいいって奴」