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□出来ることなら貴方の手で
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「ねぇ、宗像君、私を殺してくれる?」


私は、死にたい。


一刻も早く自分をこの世界から抹消したい。
何で自分が生きてるのか分からない。
どうしてお母さんは私なんか生んだのか分からない。


この世界が嫌いなわけじゃない。
この世界が憎いわけでもない。


むしろ、好き。
大好き。


世界はこんなにも美しくて、温かくて、優しくて、だからこんな世界から自分を消したい。


ああ、どうしてこんな綺麗な世界にこんなにも汚い自分が存在してるんだろう。


汚い。私は汚い。
私は自分が嫌い。


この世に自分が残るというだけで吐き気がする。
写真なんて嫌い。
映像なんて大嫌い。
自分が作った作品を残すなんてありえない。


だから、ねぇ。


「私を、殺してよ。宗像君」


殺人衝動を持つ貴方なら、私を殺したくてたまらないんでしょう? 
私を殺しても誰も困らない。
私はそれを被害なんて思わないんだから。
ちゃんと遺書も残してある。
誰にも迷惑をかけないんだから、貴方の衝動も満たされるんだから、いいでしょ? 


「断る」
「どうして?」
「だって、それだと君は死んじゃうじゃないか」
「いいの! それでいいの! 私は早く死にたいの!」
「……? どうして? 君は普通に生きてて、普通に学校に来て、普通に過ごしているように見えるけど」
「それが、嫌なの。自分が嫌いで仕方ないの!」


普通に生きてても、普通に学校に来てても、普通に過ごしてても、それが嫌。


「なら、自分で死んでくれ。僕は君を殺したくない」
「それは、ダメよ」
「どうして?」
「何度も失敗してるの」


以前に自殺を図ったことは何度もあった。
有名な死に方は全部試したみたけれど、どれも寸前でお母さんが止めに入るの。

学校の屋上で飛び降りようとしても、先生に止められたし。


「でも、どうして僕なんだい? 僕の殺人衝動のことを聞いたのかい?」
「ええ。よく聞いてるわ。沢山の人を殺して指名手配されてるって」
「……そう」


だから、私を殺した所で貴方は私のことを「殺した人間のうちの一人」で居させてくれるんでしょう? 私はこの学校では貴方としか話していないから、誰の記憶に残ることなく、私はこの世を去る事ができる。


「利害は一致してるでしょ?」
「してないよ。何一つ、一致していない」


何故?
貴方は人を殺したくてたまらない人なんでしょう?

「君は知らないんだろうね。僕は人を殺したいから殺したくないのさ」
「……え?」


訳が分からない。
殺したいから殺したくない?


「だって、殺せば人間は死んじゃうじゃないか」
「そりゃそうよ、殺すとはそういうことだもの」
「でも僕は人が好きなんだ、生きてて欲しい。だから殺さない」
「じゃあ、大量殺人犯っていうのは…?」
「嘘だよ。大嘘だ。そう言えば、人は死ぬ前に僕の前から居なくなって僕は大好きな人を殺さなくて済む」


ちょっとまって、じゃ、じゃあ私は!


「誰に殺してもらえばいいのよ!」


醜い自分が大嫌い。
美しい世界に憎悪する自分が、優しい人に嫉妬する自分が、温かい空気を煩わしく思う自分が。
嫌いで嫌いでたまらないのに。

こんなにも綺麗な世界を汚れた目で見る自分が大嫌いなのだから、死にたいの。


「お願い、だから。殺して殺して! 殺してよ!!!!」
「嫌だよ」
「どうして、どうしてよ!!!!!」
「僕は君が好きだからだよ」


え…………今。
何ていったの?


「僕は君が好きだよ」
「何で、どうして」


私は、私が嫌いなのに!


「君が自分を嫌いでも、殺してと頼んでくれた、僕に関わってくれたのは君が最初だったよ」
「でも、この世界を、私は」
「憎悪していても君は世界を綺麗だと、嫉妬していても君は人を優しいと、煩わしく思っていても空気が温かいと、思ってる君が僕はとても好きだよ」


無表情な彼の言葉。
それでも温かくて優しくて、綺麗な。


「あ……」


ほら、見なさい。
私の眼から気持ち悪い液体が流れてくるじゃない。


「こんな風に…泣いてしまう弱い自分も大嫌い……」
「でも、僕は君が好きだよ。だから殺さない」
「っ…私は…どうしたらいいの…?」
「そうだな」








「とりあえず、僕の傍で自分を好きになる練習をすればいいんじゃないかな?」





それはとても時間が掛かりそうだけど。
大好きな貴方が言うなら、試してみるのも悪くないかと思う自分が居て。


そういう自分は本当に少しだけど、好きになれた気がしたの。




―了―
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