漆黒の嘘つき
□第十五話
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彼女がシャワーを浴びている頃、彼女が持って入ったであろう着替えを自分が用意した服に摩り替えてから、臨也はキッチンへと向かう。
そこには仕事をしている波江の姿があったがどちらもさして気にすることなく、波江は仕事に集中し、臨也はコーヒーメーカーをセットする。
「波江も飲む?」
「結構よ。貴方の淹れた物なんて真っ平」
「そう?」
会話が終了すると、彼女が出てくるまでの間、臨也は奏の持っていた本の一冊を彼は読む。
それは奏から許諾を得て借りたものではない。
臨也が勝手に彼女の本の山から取り、勝手に読んでいるものだ。
時たまこうして奏の蔵書を臨也が勝手に読んでいることがあるが、奏は1度注意したきり何も言わない。
本を読む少女ではあるが本を愛しているわけではないようだった。
臨也が数ページ読んだ所でメーカーから電子音が鳴る。
黒々とした液体の入ったサーバーを手に取りカップへと注いで、もう一度ソファへと腰掛け、再度本を開いた。
しばらくして、彼女がゴシック系ロリータ調の服を着てリビングへ入ってきたのを見ると、臨也は本を閉じる。
勝手に人の本を読んでいることに怒ることも呆れることもせず、彼女はただ単に彼を感情のない瞳で見つめた。
自分の着替えを勝手に取り替えた男に対して、でもある。
彼女の服装に対する文句は恐らく「この服動き辛い」と言うことなのだろうと、臨也は思っていた。
「コーヒーあるよ」
『あ、そ』
端的な会話をすると、彼女は殆ど自分用になってしまっている外は黒、中は白でモノトーンカラーのカップを取り、サーバーからコーヒーを注ぐと彼の向かいに腰を掛け、カップを傾ける。
「何か食べる?」
『いや、今は良いや』
「そう、何から聞く?」
『おれが眠ってから最後まで、料金は後払い』
「オッケー、じゃあ話そうか。君が無様にも眠ってしまった後に起きたリッパーナイト事件の事」
コーヒーの香りが鼻をくすぐり、波江が叩くキーボード以外の音は一切ない静寂の中で、笑う青年と無表情の少女の姿が、やけに浮き彫りになって見えた。