漆黒の嘘つき
□第十五話
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ベッドのスプリングが軋んだ音がして、目が覚めた。
ずっと眠っていたときのように瞼が重く思考が上手く働かない。
そんな状況でも、奏は目の前にあった男の顔をじっと見つめ冷静に挨拶をした。
「おはよ、よく眠れたみたいだね」
男、折原臨也との顔と顔の距離は数センチ。その事にようやく気づいた奏が顔をのけようとした、がしかし、手は動かなかった。
動かそうとしても頭上でシャラシャラと金属と金属が軽くぶつかり合う音がするだけで、自分の手が臨也の顔を退けることは一向にない。
手首から伝わる金属特有の冷たさが妙に気持ち悪かった。
けれど、彼女はあくまで冷静で、足にも同じ温度が伝わってくるので足と手が拘束されていることを理解し、それをやった人物の名前も同時に感づいている。
『折原さん』
「ん?」
『退け、後外せ』
「やだ、って言ったら?」
『折原さんに拘束の趣味があったのか? どっちかって言うとナイフで傷つける類のプレイはすると思ってたけど』
「君は俺をなんだと思ってるの」
『変態』
冷淡にそんなことを言ってのけた女子高生の口を自分の口で塞いでから、彼はコートのポケットにあった鍵で手錠と足枷を外した。
『……で、今何時だ?』
「昼の十二時」
『いつの?』
「えーっと、あれから3日経ったかな」
ケータイを見てごらん、と促されるままに携帯電話を掴み、開く。
本当に自分の記憶のあった夜から3日ほど経っていた。
目の前にいる折原臨也と言う男ならば、この携帯電話を弄って日付をずらすくらいのことはしそうではあった、けれどそこまで疑うことも奏はしなかった。
パタン、と携帯を閉じて目の前にいる男を見据える。
『折原さん』
「何?」
今奏が思っていることは、怒りでも殺意でも勿論感謝でも何でもなくて、
ただただ彼女は思っていた。
『シャワー浴びて来ていい?』
3日も浴びていないとなると流石に気持ちが悪い気がしてきた彼女がそういうと、臨也は一瞬目を丸くして、そしていつもどおりの笑顔に戻し、「いいよ」と端的に答えた。