漆黒の嘘つき
□第十四話
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奏にとって、園原杏里は「竜ヶ峰帝人と紀田正臣の傍にいる真面目で儚げな少女」という印象でしかない。
いつも行動は共にしてはいるが、数えるほどしか口を聞いたことはなく関係は希薄と言っていい。
だから、その少女の名前が折原臨也の口から出てきたことに奏は驚きを隠せなかった。
『園原、杏里? あの、園原杏里か?』
「そう、君が思ってる園原杏里さんで間違いないよ」
『あいつが、斬り裂き魔だっていうのか?』
「いいや?」
『? どういうことだよ?』
「ま、君は知らなくていいことだよ」
『何だそれ、じゃあ言わなきゃいいじゃないか』
「聞かないの?」
『? 聞いたって答えないだろ?』
その通り。
折原臨也は自分が話したいときにしか話さない。
逆に言うなら今言わないということは今は言いたくないということ、つまり奏には知って欲しくないということだ。
「全く、君は察しがいいね」
『そりゃ、どうも。って言うか……チャットが楽しいことになってる……』
「あー、見ちゃったの?」
『見なきゃ良かった』
奏にはが見たチャットルームの文面は以下の通りだった。
{今日は一人斬ったの。でも、一人で充分。贅沢のしすぎは良くないから}
{だけど、明日も斬るわ。愛する人は多ければ多いほどいいから}
{私は人を探しているの}
{平和島、静雄}
{それと、久遠寺奏}
{私が愛さなきゃいけない人たちよ}
{明日も斬るわ}
{平和島静雄の居る所は解る、でも人が多いわ}
{久遠寺奏の居場所も同じ、学校だもの}
{彼等の家が知りたいの}
{一人暮らしなのかしら? 家も池袋なの?}
{もっと知りたいわ、静雄は特に}
{池袋で一番強い人だもの}
{愛したい、だから知りたいの}
{明日も人を斬るわ。彼等に出会えるまで、毎日、毎日――}
{早く会いたいわ、早く早く早く早く――}
『何で名前バレてんの?』
そこである。
今までに無いような怯えている雰囲気の声で臨也の方を向き、尋ねるが返って来る答えは決まっている。
「さあ?」
『妖刀に折原さんみたいなスキル持ってたり』
「するわけないでしょ」
『だよな。あ、妖刀、か』
「どうしたの?」
『罪歌は人を斬って心を乗っ取るわけだろ?』
だったら、その人の記憶を見ることも出来るんじゃないのか?
奏がそういうと、臨也は笑って「そうかもね」とだけ呟いた。
『その言い方は違うんだな』
「何も言ってないじゃん」
『折原さんの言い方で大体は解るんだよ。それでもあんたが本心でしゃべってるとは分からないけどな』
そこまで言った所で、奏の携帯電話に着信があった。