漆黒の嘘つき
□第十三話
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「さて、どうしたものかな」
夜――、南池袋公園付近で奏は呟いた。
いつもならこの時間帯は新宿の臨也の事務所で読書なり勉強なりをして過ごしているはずなのだが、今日は彼女は一人で池袋を徘徊していた。
斬り裂き魔にあってからと言うもの、彼女は単独で行動していることが多かった。
理由は二つ。
臨也に極力被害が及ばないようにするため、
それから、叔父の命のため。
どうにも、叔父が臨也から聞いた情報に寄れば、斬り裂き魔は複数人での犯行らしい。
だから、いくら撃退しても撃退しても、逮捕されても逮捕されても、傷つけても傷つけても、被害が減ることは無いのだ。
そんなわけで彼女は一人、斬り裂き魔の被害を抑えるべく歩いているのだった。
南池袋公園。
ここが何件目かの事件現場だったことは奏も知っている。
現場百回捜査の基本。
とは言うが、別段彼女がここに来たのはただ単なる偶然である。
そう、偶然。
ここで平和島静雄に会うのも、ここでセルティ・ストゥルルソンに会うのも、偶然なのだ。
『運び屋さん、に平和島さん』
「あ?」
勿論偶然なので、彼女にそんな意思は無かった。
平和島静雄に会うことも、運び屋に会うことも。
「お前……誰だ?」
セルティと奏が転びそうになったのは言うまでもない。
平和島静雄と奏は初対面ではない。
3度ほど、対面している。
去年の今頃に、1度。
去年の四月に、2度。
ただ、それ以降は会っていない(臨也とともに行動していれば当然会うこともないのである)。
加えて、1度目は男子と勘違いされたまま別れ、2,3度目は少しだけの邂逅だったのでかれが覚えていないのも無理はない。
多分。
『久遠寺奏です』
「あ?」
睨まれる。
本名を名乗っただけで睨まれるとは思いも寄らなかった。
「お前男じゃなかったのか? それともそういう趣味なのか?」
『いや、あの、おれ、女です。一応』
歯切れ悪く答えると、静雄から「そうだったのか…」とちょっとショックだったかのような声が聞こえてきた。