漆黒の嘘つき
□第十二話
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――何、この死亡フラグ。
今現在の状況を端的に表した、久遠寺奏の感想はそれだった。
現在の状況。
つまり、サバイバルナイフを持った少女と路地裏で対面しているこの状況のことを示している。
「愛してる」
『は?』
少女が呟いた言葉。
決して美少女とは呼べないその少女は、目を赤々と充血させてナイフを離さないようにと握り締めて笑みを浮かべる。
勿論、奏に同性愛の趣味もなければ、見知らぬ少女に愛を囁かれるほど善事に及んだ覚えも無い。
突発的なことだった。
叔父からの電話をもらい「最近切り裂き魔と呼ばれる通り魔が増えているから、銃刀法違反になる武器は回収しろ」との命をもらい、それを実行に移していた。
粟楠会に奏が命じられているのはその一点のみ。
その命令を実行しているからこそ、彼女は数十本のナイフを体中に所持しているのである。
「ねぇ、ねぇ、愛、受け入れて」
『無茶言うな』
いきなり愛を囁かれて受け入れる人間がいるか。
と呟いたところで自分で気づく。
『って、何を言っているんだおれは』
自分はしっかりと折原臨也の愛を受け入れてあの男の傍にい続けているというのに。
――いきなり愛を囁かれて受け入れるくらいには愛に餓えているじゃないか、おれは。
「愛を、傷を、受け入れて。ねぇ」
だからと言って。
だからと言って、この愛は受け入れるのは少しだけ抵抗があった。
「ねぇ!!」
スカートを翻して、ナイフを持った少女が詰め寄ってくる。
そのままナイフを振りかざしてくる。
本気の目。
自分がチンピラを撃退するのに使うナイフの使い方とは全く違う。
『うっせーな』
しかし、所詮素人。
ナイフを使いこなして、喧嘩の仕方を覚えてもう4年になる奏が避けられないわけは無い。
『愛ってのは切りつけられることか? お嬢さんよぉ』
「そう、これ、私の、愛」
『さよで。残念だなぁ、お嬢さん』
「なぁに?」
『おれは、傷を作るわけには行かないんでねっ』
そう叫んで、彼女は、
少女の足に向かって折りたたみ式のナイフを折りたたんだ状態で、投げた。
女子の力とはいえ、かなりの速さで向う脛に激突したそれは、少女にかなりの痛みを与えたようだった。
それでも、少女は立ち上がる。
彷彿とさせるのは約一年前、愛に痛みは必要ないといったあの少年。
ただし、彼女はもう次の手を打つ準備をしていた。
自分の着ていたジャケットを脱いで、少女の目元に向かって思いっきり投げつけたのだ。