漆黒の嘘つき
□閑話
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嫌がらせは毎日のようにやられている奏は当然のように突っ込みを入れた。
しかし、その言葉の嫌がらせの意味は奏が今一番嫌だと思うこと。
つまりは女物の洋服を送られることだ。
一見、美青年から月に一度の頻度で服を送られる、という構図はなかなか魅力的に見えることだろう。
その上、高校生が普通に働いたのではもらえない額が手に入るのだから、何も問題はないはずだ。
たとえ時給が400円台だろうが、雇い主が「うざい」の代名詞である折原臨也であろうが、仕事内容がその彼を守ることであろうが、それは大したことではない。
その雇われる女子高生が久遠寺奏でなければ。
女らしさ(弱さ)を切り捨て、男勝り(強さ)求めている彼女はそれを侮辱と受け取ったが、そこから臨也の策略は始まっていた。
それが嫌がらせなのだから、受け入れろ。
彼はその言葉で一蹴した。
それで漸く奏は屈服し、雑務と護衛、それから女物の服が届くという嫌がらせを受けることになり、今に至る。
「踵落としで起こす必要ある?」
『ああ、それはごめん。日頃のストレス発散だ』
「俺にそんなにストレス溜まってるの? 奏ちゃん」
『ん? 波江さんに折原さんの傍にいたらどれだけストレスが溜まるか聞いてみれば?』
「遠慮しておくよ」
『まぁ、あえて言うなら「そんなところで寝てんな風邪引くだろ」って意味合いもこめてたんだけどね』
何だそのツンデレは。
そしてそれを何故あえて言った。
臨也は疑問を抱きながら、そしてその疑問でさえも宝物のように胸のうちにしまいながら、紅茶を啜る。
『で、今日はどこか出かけるのか?』
奏の仕事の最初は臨也のスケジュールの確認から始まる。
最も効率よく動くにはそれが最適だから、というよりも知っていたほうが動きやすいからというのが一番の理由だ。
「そうだね、出かけようか」
『どこに』
「デパート」
沈黙が走った。
勿論、言葉を失ったのは奏だけで臨也は優雅に紅茶を啜っている。
奏が苦虫を噛み潰したような顔をして、その後無理に微笑んで『了解』の応え、空になったカップを回収した。
今度は臨也が言葉を失う番だった。