漆黒の嘘つき
□閑話
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これは本編より少しだけ、未来のお話。
5月4日、ゴールデンウィークの後半へと差し掛かって2日目と言った日付の中で、折原臨也はソファの上で眠っていた。
それを見て、奏は特に反応するわけではなくただ普通に、彼が起きている時と同じように、自分の荷物を床に置きダイニングへと向かった。
働き始めて1年経って漸く慣れてきた紅茶を淹れるという行為。
それもティーバッグでなく茶葉から淹れるとなれば、奏はてんやわんやだった。
最初は嫌味交じりで飲んでいた臨也も、最近では慣れたのかそれとも奏がうまくなったのか、文句をいうことは無くなった。
てきぱきとお茶を淹れる支度をして、風と一息をつく。
1分間の空白時間。
これは紅茶を淹れる上ポットの中で茶葉を蒸らすという、大変重要な時間だ。
しかし、待つ側からしてみれば一分間というものは大変退屈で、大変長く感じるもの。
そこで彼女は何をしたか、
折原臨也に腹部に右足のかかとを落とした。
「ぐっ!?」
普段の折原臨也からは考えられないような声が、彼の口から零れ落ちる。
「奏、奏ちゃん――何してくれたのかな?」
『踵落とし』
「さらっと答えないでよ」
さらっと答えないでどうするんだよ。と突っ込んだところで腕時計を確認し、もう一度ダイニングに戻る奏。
「今日は何?」
『知らん。適当に棚の手前から取ったからな』
カップから20センチほど離れたところでポットを傾け、白の陶器が飴色で満たされるまで数秒彼らは黙っていた。
トポトポとポットからカップへと紅茶が注がれる音だけが広い室内に響く。
『ん』
「どうも」
さて、基本に立ち返るならこの二人は守る側と守られる側だ。
どうしてこんなにメイドと主人のような、それにしてはぞんざい過ぎるくらいぞんざいな関係になっているのだろうか。
やはりそこは奏の奏が真面目であるが故のことだ。
給料の問題である。
やはり、あの給料では割に合わないという奏の言い分から「じゃあ雑用もやって」と臨也が言って、それから結局日給は1万にまで抑えられた。
それでもやっぱりもらいすぎなのであるが、そこは折原臨也が引かず、お互いに妥協。
そして折原臨也が奏に出した条件。
奏に月1で嫌がらせをしても怒らないこと。