漆黒の嘘つき
□第九話
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久遠寺奏は少し後悔していた。
理由は自分の前にある空席。
そこは本来紀田正臣がいるはずで、今は健康診断が終わって委員会を決めるためのHR真っ只中なのだが、彼は違うクラスのHRに行っていた。
それは奏のせいでもあったらしい。
しかし自分にはどうしようも出来なかった。
折原臨也に近づくなと言われても、もう近づいてしまっているのだし、そもそも奏は雇われている身だ。
彼が手放さない限り奏はあの男の所有駒。
逃げることなどできはしないだろう。
そんな男だと知ってるんだろう、と尋ねると紀田正臣は「オレ、帝人のところに行くわ」と教室を出て行ってしまった。
出て行って、そのまま帰って来ていない。
幸い、委員会はほとんど決まっているから問題ないといえば問題はない。
「久遠寺さん、良いですか?」
『え、あ、はい?』
突然名前を呼ばれてどう反応していいかわからず、間抜けな返事をしてしまってクラスに笑いが起きる。
「図書委員をやりたがる男子がいないから、久遠寺やれって話だよ」
隣の男子がわざわざ丁寧に教えてくれたが……。
『だからおれは一応女だって。それはアリなんですか先生』
「お前女子だったのか」
『あんた自己紹介のときにいただろうが! 自己紹介でおれが女って言って騒いだこいつ等を静めてただろ!?』
「あったなぁ、そんなこと」
『先生!?』
まぁ、それは冗談として。と教卓付近にある椅子に座っている教師は女子もOKだから、と付け足す。
愛すべきバカクラスの担任はやはり愛すべきバカだった。
『じゃあやります』
「うし。これで決定だー、後は好きにしろー」
教師のその言葉に立ち上がる人間もいれば、ゲームを取り出す人間もいる。
帰ろうとする人間がいない辺り、下校してはいけないことが分かっているんだろう。
まだHRが終わるまでに15分はあるのだった。
やっぱりはしゃぐくせにやたらとHRが早く終わるクラスなのだ。
「久遠寺ー、トランプやろうぜトランプ」
『おー』
そして、やはり完全に男子扱いを受けている奏なのだった。