漆黒の嘘つき
□第八話
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「とりあえず、死ぬ前に何かしたいことってあるかな?」
折原臨也はカラオケボックスで物騒なことを呟いた。
その呟きを奏は本のページをめくりながら聞いている。
カラオケボックスなのに何ら音楽が流れていなければ、1名に限ってはついさっき買って電撃文庫を読んでいるし、落ち着いた声が響くだけだった。
奏は全く見ていなかったが、臨也に問いかけられた二人は首を横に振った。
「そう、でも、本当に僕なんかでいいのかな?」
心中する相手が。という意味合いで青年が尋ねるといないから死ぬんです、とにべもない答えが返ってきた。
「ところで、この子は誰なんですか? こんな子が来るなんて掲示板では言ってませんでしたよね?」
言ってなかったのか、と心の中でツッコミを入れながらまたページをめくる。
女性の一人に対して臨也は自分の連れと言った。それはまるで数ヶ月前を思わせる言葉。
この風景は数ヶ月前を思わせるからこそ、彼女は関わろうとしないのかもしれない。
「連れって、さっきから会話に入ってこないんですけど」
『このまま行くと人生最後の読書になるからな』
「それはそうよ。あなたが選んだんでしょ?」
と言われても自分には全くしっくり来ない。
死ぬつもりなど毛頭ないのだから。
「そもそもあんたなんで死ぬの?」
『生きる意味を見出せないから』
嘘半分、本気半分だった。
自分はどうして生きているのか。
自分が生きていて何の意味があるのか。
それが彼女には分からない。
もっとも、それは誰にも分からないものなのだが。
こういった人間達の前にはそれは自殺する理由としては充分すぎた。
「まぁ、それはおいといてさ。君達、死んだ後はどうするのかな?」
「え……それって、天国ってことですか?」
――だから自殺する人間は天国にいけないっての。
そう心の中で言いながら、彼女は本を閉じた。
勿論読み終わったわけではないが、この二人の女の言い分が本よりもというわけではないが面白そうだと思っただけだ。