漆黒の嘘つき
□第五話
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開式の辞、国歌斉唱、校長の祝辞、来賓の祝辞、卒業証書授与、式歌斉唱、校歌斉唱、在校生送辞、卒業生答辞、閉式の辞。
それらを順番どおりこなして、難なく迎えた卒業式。
後は適当に皆で写真を取るなり何なりしている友人たちを残して、奏は帰る支度をしていた。
支度と言っても、これと言って何かしたわけではない。
担任だった先生に「お世話になりました」などの社交辞令を述べて、さっさと正門に向かっていった、というだけである。
「奏ちゃん、帰っちゃうの?」
そう問いかけてきたのは、あの友人。
奏を自殺オフに連れて行った、折原臨也と出会うきっかけを作った彼女である。
『ああ。別に。用もないし。腹減ったし』
「そう。卒業、おめでとう」
『そっちも。じゃあ。これで』
「いろいろ、ありがとね」
『おれはお前に礼なんか言わないぜ? お前が一緒にいて楽しかったことなんて何一つなかったし』
「うん。でも、私は奏ちゃんにたくさん助けてもらったから」
『何もしてねえよ。じゃあな。元気で』
それだけ言って、もう振り返らないといわんばかりに彼女は門をくぐった。
その姿は卒業生の男子全員よりもかっこよかったと一時評判になったことを彼女は知らなかった。
もう多分奏がここに来ることは多分ない。
ここには、黒歴史の少しが詰まっているのだから。
「いやぁ、奏ちゃんって制服似合うよね」
『!?』
「やぁ」
黒歴史である制服姿のことをさらりと指摘され驚き、そして声の方向を見るとそこにいたのは
黒のペテン師だった。
『何でいる』
「卒業おめでとう、奏ちゃん」
『人の話を聞け』
説明するまでもなく、折原臨也である。
最初のように、正門前で待っていたわけではない。正門の真横に立っていたのだ、彼は。
もっと言うならば、彼は最初から卒業式の保護者席で堂々と座っていたのである。
「学校って警備がゆるいよねぇ。卒業生の兄ですって言ったら、簡単に通してくれたよ」
『あんたみたいな兄はいらん』
「俺も奏ちゃんみたいに受験勉強を手伝ってくれた人間に合格したことを言わない礼儀知らずな妹は要らないかな」
――やっぱ知ってる。でもって根にもってる。