漆黒の嘘つき
□第四話
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――何というか、荒れてんなぁ……。
平日の昼間とは言えど人混みがまったく消えていない街中を一人歩く少女(本人曰く少女モドキ)。
「おいこら、てめぇわざとぶつかっただろう!!」
「すいません」
黄色い布をつけた少年2人と金髪の青年がいがみ合っている様子を見つけた。
すごんでくる黄色い布の少年に対して金髪の青年はあっさり謝って深々と頭を下げる。
「わざとじゃないんです。本当にすいませんでした」
「ああ゛!?」
「んなこと信じられると思ってんのか!!!」
――いや、信じてやれよ。
というのは最近の若者には無理な話である。
いや、最近の若者でなくても同じ。
すぐに疑う。
裏切る。
それが人間。
『折原さんは「だから人間は面白いんじゃないか」って言うのかもなぁ』
ポツリと呟く声は、野次馬の声の中へと消えていく。
野次馬。
喧嘩を始めようとする少年と青年たちを見ている人間たちがいる。
奏と同じく、見ている理由は暇だからという人間が大多数だろう。
「慰謝料払えや!!」
野次馬の中心となっていることに気づく様子もなく少年はしつこく金髪の青年を見上げる。
いささか不恰好だが、青年のほうが長身なのだ見上げるしか方法はないだろう。
「それくらいの金はあんだろバーテンさんよ」
金髪、長身、バーテン。
その三つの単語には聴き覚えがあった奏だが、やはり忘れているのだった。
――なんかおじさんに言われたんだけどなぁ。
彼女はまだ知らない。
青年の名前が「平和島静雄」であることを。
彼女はまだ知らない。
彼こそが折原臨也が名前も出したくない相手だということ。
「まぁ、ぶつかった俺も悪かったけどよ……」
ここへ来て。やっと金髪の男が反論した。
その瞬間、奏の周囲は青ざめた顔になり、隣にいた眼鏡の男性が「やっべ」と呟く。
「謝ったよな? 俺はちゃんと謝ったよな? それでそっちも悪いかもしれねぇのに悪びれもせずに、こっちだけ悪いみたいなこといいやがって。そっちも謝罪はするべきじゃねぇのか? ああ!?」
――切れた……。
奏がそう思うのと、周囲の人間が半径10メートル以上離れるのと、そして少年のうち1人が吹っ飛んだのは、ほぼ同時だった。