漆黒の嘘つき
□第二話
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「あ、やっと返事してくれたね」
叫び声に耳を押さえながら、目を細めて口角を上げる真っ黒な青年。
その笑顔と言葉にしまった、という顔を隠さない彼女。
校門前で半径五メートルの距離で野次馬を作りながら、二人が対峙していた。
中には「え、あの人彼女かな?」とか「お兄さんでしょ、年離れてそうだし」という声を上げる少女達もいたが、彼女は全部無視だった。
というか、「気色悪いことを言うんじゃねー」とか、内心思っている隙間も彼女の脳内にはなかった。
どうして返事をしてしまったのか、という疑問が彼女の頭の中を巡る。
こうなってしまっては仕方ない。
『な、くらさん』
「何かな?」
『移動しない?』
――ここじゃ、目立つ。絶対あいつ等になんか言われる。
友人達が出てくる前にこの人と自分をこの場所から移動させなければならないと考えた。
とりあえず校門前から移動し、少し離れたのファーストフード店へ逃げ込んだ。
「改めて、こんにちは、奏ちゃん。久遠寺奏ちゃん」
『おれをちゃん付けするな』
「ああ、ごめんごめん。でも、年上がそう呼ぶのはOKなんだよね? 叔父さんの部下とかそう呼んでるんでしょ?」
『そういえば、あんた一応年上だっけ』
「一応じゃなくても年上だよ」
そこでふと奏は気づく。
自分がちゃん付けされるのが嫌いなのと、年上の人間がそう呼ぶのを許していることをこの男に話した覚えなどない。
それなのに。
『何でそのこと知ってんだ』
「オレ、物知りだから」
遊ぶような彼の返答に、奏はストローにため息を吐きかけた。
『じゃあ、物知りの奈倉さん。色々聞きたいことがあるんだけどさ』
「うん。何でも聞くといいよ」
――意外と、あっさりだった。まぁ、拒む理由も無いか。
お言葉に甘えて、といわんばかりに、悩むことなく彼女は質問を投げかけた。
『じゃあ、まず名前』