漆黒の嘘つき

□第二話
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授業が全て滞りなく終了して、いつも通りに帰ろうと鞄を持ったところで。


「ね、ね、あの人誰? 誰かのお兄さん? カッコいいね」

「あ、本当だ。服黒いけど。そこもいいよね」


窓を見ながら騒ぎ出す少女達の言葉が奏の耳に届いた。


――服が黒い、カッコいいお兄さん?


彼女の脳内にあの男のへらっとした笑顔が浮かぶが、すぐに訂正する。


――いやいや、まさか。黒い服を着るカッコいい男なんて誰でもいる。あの人とは限らない 昨日会ったばっかりだから、あの人が浮かぶだけだ。うん。


そう思って、鞄を持ち直し、友人に別れの挨拶を告げて教室を出た。


校門前に行って久遠寺奏は後悔する。


「やぁ、奏ちゃん」


真っ黒なファーつきのコート。その下には黒のシャツを着て、黒のズボン。
そして、整った顔に胡散臭い笑顔。


それを見た瞬間、奏は回れ右の形をとる。


――見えない見えない。おれは何も見ていない。


「あれ? 無視かな? 奏ちゃん」


――聞こえない聞こえない。おれは何も聞こえない。


「ねー奏ちゃーん」


――呼ばれてない呼ばれてない。奏なんて名前の奴はおれ以外にもいる。



そう思うことにした奏は、教室に1度戻ることにした。


「忘れ物したかもしれない」と、そう言い訳を考えながら、一歩踏み出す。


「戻ってもいいけど、俺君が出てくるまで待ってるからねー」


踏み出した足を引っ込めて、くるりともう一度回れ右をして、奏は叫んだ。



『煩い、うざい、ストーカー!! さっさと帰れ!!』


と、



大変目立ったのは言うまでも無い。
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