漆黒の嘘つき
□第一話
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先ほどから奏は教室のざわめきに違和感を感じていたが、こういうことだったのか、と納得する。
深く息を吸って、すっと吐き、そして尋ねた。
『どうしたんだよ、その格好』
「変わろうと思って」
『ふぅん。あれの影響?』
「あれ? 奈倉さんのこと?」
『そうだな』
「うん、そういえばそうなのかも。地味っていじめられてたから死のうとか思ったけど派手にすればいい話なんだね」
果たして、そんな単純な話だっただろうか。
と、奏は考えるが、本人が気にしていないのならいいのかもしれない。
それに、これで周りの見る目も変わるだろうと思い返す。
いやまぁ、奈倉は「生きろ」などと一言も言っていない、「自分で死を選ぶなら天国なんかに甘えるな」と言っただけである。
『死ななかったのか?』
「うん、皆しななかったよ。『あいつに目に物見せてやる』って意気込んで帰って言った」
――なんだ、あの人結局、人救ってんじゃん。
あんな言葉で救われる人間なんているのか、と奏は嘆息する。
――しかし、人間の言葉でここまで変わろうとするもんかね。
奏は、自分なら絶対にごめんだと思いながら、「まぁ、がんばれ」と友人に言い放ち、さっさと読書に戻ろうとしたら、HRが始まった。
いいところだったのに、と舌打ちを友人と教師に向けて打つ。諦めて本を閉じ、前から回ってきた朝学習のプリントの解答欄にシャープペンを向けた。
1時間目が終了すると、先ほどとはまた違った友人が話しかけてきた。
「奏奏!! あの子どうしたの!? 可愛くなってるじゃん!」
『おれの知ったことか』
「え、でも昨日出かけてたんでしょ? 一緒に」
『まぁな。でも向こうは途中で帰ったよ』
「帰るまでに何があった!?」
『悪魔の説教』
「は?」
正しくも無いがあながち間違ってもいない。
あの男は本当に悪魔のような人間だったのだから。
「意味が分からないんですが」
『分からないならそれでいいんじゃねーの』
「えぇー?」
ブーイングを受けようと、奏は本当に間違ったことはいっていないし、本当のことなんていう必要も無い。
友人に語ったところで耳を汚すだけだろう。
「まぁ、いいや。ところでさ、奏」
『何?』
「昨日の男の人、誰?」