漆黒の嘘つき
□第一話
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自殺オフに誘われて、そこに行ったら真っ黒な悪魔みたいな男とであって少し話した。
それが、久遠寺奏に先日の日曜日に起こった出来事。
それによって学校が休みになるなんていう奇跡は起こるはずもなく。普通に彼女は学校へ登校した。
自主休校という手を彼女が思いつかなかったわけではない。
父に心配をかけたくなかったのと、自分のおかれている立場、即ち受験生という現実から背を向けられないと考えたのとで、その行動をとらなかった。
自殺オフと奈倉との出会いが次の日に学校を休みたいほど、重い出来事だったわけではない。
自分の友達が自殺したのかもしれなかったが、それは彼女にとっては「ああ、あの子はそういう選択をしたんだ」という認識でしかない。
元々そこまで言うほど仲良くはなかったのだから。
では何故、彼女が学校を休みたい、などと考えているかというと。
奈倉にもう一度で会いたいと思っているからだ。
しかし、それは15歳の少女らしい感情からではない。
単純に、彼の本名が気になるからだった。
そしてその理由も、
――あの人の名前が爽やかだったら笑えるよな。
とか、そんな色気の無い感情からである。
故に、そんなことのために授業を不意にするなど出来るわけがないというのが、彼女が今教室で「キノの旅T」を読んでいるのは、そういうことだった。
――そもそも、『2度と会わない』って言ったし。うん。
彼女は次のページをめくろうと本に手をかけた。すると、彼女から見て斜め後ろから声をかけられる。「奏ちゃん」と。
その声は聞き覚えがあった。
というよりも、自分のことをそう呼ぶのはこのクラスでたった一人。
昨日、自分と自殺オフに言った少女。
彼女が振り返ると、案の定友人が、笑顔でそこにいた。
ただし、日曜日までとは全く違った格好で。
中学三年生だというのに、明るい茶色に染められた髪。ブレザータイプの制服を着崩した少女。
今までは真っ黒な髪を耳の裏で二つに結んで下にたらしていた少女が、着崩すなんて思慮もしなかった少女が、そんな格好で教室に入ってきた。