復活短編
□春紫苑
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救急車のサイレンが近づいてくる中、僕は身体の主導権を元の身体の主に返す。
彼女を見た瞬間に思っていた。
この身体はもう用なしだと。
次は彼女だと。
そろそろ「みーくん」などと呼ばれるのも飽きた。
母親と戯れるというのは、この世界では初めての経験だったが、この年ではいささか恥ずかしいものがあった。
それに何より、あの娘の方が波長が合いそうだ。
そもそもこの場に僕がいたのは彼女が原因なのだ。
道端ですれ違い、波長が合いそうな気配を感じてここまで追ってきた。
そしたらこの結果だったというわけだ。
みすみす利用できそうな身体を見殺しにするのも惜しい。
それにどうにかして助けてやれば簡単にこちらに気を許し、身を委ねてくれそうな純朴な少女に見えた。
多分僕の見解に間違いはないだろう。
牢獄の中に戻ってきた意識を、すぐさま幻想世界へと飛ばす。
彼女は今頃救急車の中だろうか。
あるいは手術中かもしれない。
コンクリートの次に見慣れた草原の中を歩く。
幻想世界に飛ぶことは度々あるが、毎度毎度違う場所に現れる。
今がどこにいるか、分からない。
いつもは暇だからこそ散歩をして、ここがどこなのかをゆっくり思想するのだが、今日はそうも行かない。
早く彼女を見つけ出さなくては。
運よく助かっていればこの世界に迷い込んでいるはずだ。
運が悪ければ、死んでいるだろう。
あの出血量だおかしい話ではない。
だからこそ、早く。
早く――。