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□はじめまして新人さん。
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「おや、こんにちは」

勝手知ったる他人の家、もといヘルシーランドの骸の部屋に置かれている冷蔵庫から麦茶を出していた綱吉が振り返ると、骸が綱吉の後ろの方を見ている。骸の視線のほうへ振り返る。冷蔵庫しかない。
「誰か知り合い来たの?」
「…いいえ、気のせいだったようです」
綱吉から麦茶を受け取り一口飲んでから、骸は小さくため息をついた。
「実は…」
「うん」
「…ああ、やっぱり何でもないです」
ひらと手をひと振りした骸はゆっくりソファに沈み込み、綱吉は隣へ座った。
「何。なんかあったの?調子悪いのか?変だぞお前」
どこから持ってきたかは謎のローテーブルに麦茶を置き、綱吉がそろそろと骸の額に触れる。平熱。割と普通。どこも変じゃない。
ーいや、変なのは骸そのものか。
「何です。この頭か、けしからん事考えてるのは」
「いやいや心読むなよ!仕方ないだろ?…で、熱はないけど本当に何かあった?」
綱吉が骸の顔を覗き込むと彼の赤と青の瞳とかちあう。
ふむ…、と顎に手を当て少し考えるそぶりを見せた骸はちらと綱吉に視線を戻し、呟いた。
「いや、言うほどでもないかなと」「の割にはなんかもやついた言い方だけど」
ずい、と綱吉がやや骸に顔を近づけると(比較的最近身につけたスキルである)、骸は少し顎をひき眉を下げた。
「いえね、…」
言いかけた骸の視線が上がり、綱吉がそれを追おうとするのを阻止するように骸が綱吉の顎を素早く右手で掴み唇に噛み付いた。
「ふぐぅっ!!」
後ろに何がいるんだ!そう思うのと同時に骸の舌が綱吉の歯列を割り咥内へ侵入する。
突然の口づけに慣れない綱吉はされるがまま骸に後頭部をがっちり押さえられ角度を変えられる。
そんなに後ろを見せたくないのか。誰がいるんだ。城島犬とか柿本千種とかじゃあないはず。クロームにはこんなシーンを見せるわけがない。フランに見られた時には一生ネタにされるに違いない。いやだそんなの。
角度を変える度に骸の息遣いを感じる。鼻に抜ける声。濡れた音。
耳まで押さえてきて。こいつ絶対慣れてやがる。でもちょっと気持ちいいかも…
そのままぐっと体を押され後ろに倒されそうになり、綱吉は少しだけ目を開けた。








骸は綱吉を見ていなかった。いや、目はばっちり開けていた。しかし綱吉の額の遥か上の方を見ている。正直に言うと異様な光景だ。
綱吉はくぐもった悲鳴を上げ骸を全力で突き飛ばした。
次いで後ろを見る。誰もいない。
「骸怖いよお前!!ムードぶち壊しだよ!!何見てんだよ俺お前の顔がトラウマになるだろお!?いくらイケメンだろうがやっていいことと悪いことくらいあるわ!!」「今イケメンて」「うっさい!!」
ソファから落ちて尻餅をついた骸が口元を拭いながら起き上がり呟く。「いえ威嚇のつもりで」
「だーかーら!!何がいるの!?人!?虫!?蚊にまでヤキモチ妬いたり挨拶しちゃうのかお前は!!蚊取り線香買ってこい!!」
はぁはぁ。息を荒げた綱吉を珍しく困ったような顔で見た骸は長いため息をつき、再びソファへと座る。テーブルにあった麦茶を一口飲み、ふむ、と首を傾げた。
「俺さあ、骸が突然しばらく旅に出ますって急にいなくなって寂しかったんだぞ。だからお前帰ってきたら何しようか色々考えたりしたり、して」
「綱吉…」
「なのにさあ、何だよお前。勝手すぎるよ。なんかさ、お、俺ばっか好きみたいじゃん。馬鹿みたいだ。…もう帰る」
「綱吉」
骸が立ち上がった綱吉のズボンを軽く掴む。
綱吉は今日ベルトをし忘れていた。ズボンは強く引かれれば見事ずり落ちるだろう。つまり逃げられない。
「…何」
「分かりました言いますから…あと僕もちゃんと好きなのでそのあたりは心配しないでください」
「そういう言い方がヤなんだよぉ」
「そんな僕を好きになったんじゃないんですか」
「うう、なんかむかつく」




「…とにかくね、ついこの間まで僕達は日本じゅうを観光してたんですよ」
「え、そうなの」
「ええ。温泉入ったり自然に触れたり繁華街で食いだおれしたり」「楽しそうだね」
「はい。あ、あとでお土産渡すんで持っていってください。…それで、まあ日本じゅうなんで、ここは行きたいなというのを皆で決めてまして」
「どこ行ったの」
「心霊スポット」




「…」
「心霊スポット。肝試し」
「言い換えなくていいよ」
「とにかく北から南まで有名所は片っ端から行ってきました。なかなかスリリングでしたよ」
「…で?」
綱吉が尋ねると骸が脚を組んだ。
「旅行が終わって帰ってきて冷蔵庫を開けたらいました。憑いてきたんですかね。しかしまあ日本じゅうまわって憑いてきたのが一人だけというのもまた」
「帰る」
「聞かないんですか」
「帰るよ。もうここには来ない」
「別に悪いことはしませんよ。ただ見た目がちょっと」
「いいよ言わなくて!!」
「今は出てきてこっち見てます。部外者の君が気になるようで」
「そいつが部外者だろお!?」
「いきなり知らない人が冷蔵庫を開けるもんだからびっくりしたんですよ」
「やだよもうそんな人見知りな幽霊!!」
「あんまりに君に興味があるようだったのでこの子は僕のものだというアピールを」
「いつも突っ込まれる側な癖に!」
「いやまあ、それはね。とにかく、そういうわけです…綱吉?」



「…説明は終わりか?」
骸がざわりとした気配を感じ綱吉を見ると、その瞳は炎を思わせる色に染まっている。若干目つきも据わっているようだ。
「…まさか、本気で怖がってたんですか」
「当たり前だろ」
「そんな自信たっぷりに…」
ぎしり、ソファが軋み、綱吉は骸の肩を強く押す。
その足を押し広げるように体を割り込ませ、骸が着ていたTシャツを胸近くまで捲りあげた。
首筋に顔を埋め強く吸う。びくりとした体をなぞるように触れた。股間を膝で押し上げる。
「あ…」
生理的に潤む目で綱吉を見て、ゆるゆると腕から肩を撫でつつ首に腕をまわしてくる骸の髪を撫で、唇に自分のそれを重ねようとした時、ふと骸の視線が綱吉の横へと逸れた。何かを追うように。
自然と綱吉もそれを追う。そうして。







「帰ります」











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ハイパー様になると色んな感覚が爆発的に鋭くなりそう。

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