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□プレゼントをください
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はぁ、と冷たい空気の中に生暖かい白い空気を吐き出す。さすがにもう冬であり、世間はクリスマスの準備に忙しない。こうして外から見ると実に平和なことだ。
「いつまでベランダにいるつもりですか」
がらりと隙間のある音を立てて、風呂あがりであろう骸が窓から顔を出す。まだ温かい骸の体からは白い蒸気があがっていて、深い藍の髪は濡れたことによってより深みのある色になり骸の顔に張り付いている。
「ん、もう入るよ」

綱吉が部屋に入り窓を閉めると、ちょうど骸は押し入れから布団を出しているところだった。
「ちゃんと歯を磨いてくださいね。君虫歯になりやすいんだから」
そう言いせっせと二組の布団を敷く骸に軽く返事をしながら洗面所へ向かい、同じコップに刺さった歯ブラシのオレンジ色の方を取り歯磨き粉をつけ、ごしごしと歯を磨く。ちなみに骸は青の歯ブラシである。あとその横には、髭そり用の剃刀と、洗顔石鹸。
そこそこ磨いてからよく口をすすぎ、タオルで口元を拭っていると、布団を敷き終わった骸が首にかけていたタオルを洗面所に置きに来た。
「ちゃんと磨きました?」
「ちゃんと磨いたよ。確かめる?」
振り向くと骸の顔が綱吉よりも少し上にあり、その細い顎を軽く指でなぞりながら綱吉は骸の薄い唇に吸い付く。
ちゅ、ちゅ、と小さく音を立てながら角度を変え、綱吉はやや乾いてきた骸の髪へ指を差し込む。骸は、両手を脇へ垂らしたままである。
ぬるりと綱吉が舌を骸の唇に割り込ませると、それに応えるように象牙質の強固な門がゆっくりと開き、綱吉のそれを受け入れ、そして





「…っ」
綱吉が口を抑えつつ素早く骸から離れた。骸は目を細めつつ綱吉の顔をねめつける。
「盛るな、今はそんな気分じゃありません。」
「へいへい…」
がぶりと手加減なく噛まれた舌がずきずきと痛む。血でも出ただろうか。骸はふいとこちらに背中を向けて寝室へと戻っていった。綱吉は小さく溜息をつき、自らも寝室へと向かう。
「怒ってる?」
「怒ってません」
「嘘だあ」
「嘘です」
「マジでか」
「嘘です」
「そうなの?」
「嘘です」
「どっちだよ」
やけた畳に敷かれた布団に入り、電気を消す。しばらく定位置を探し、落ち着いたころに骸が小さく呟いた。
「怒ってませんからね」
次いですみません、と言った言葉に綱吉がもぞりと体ごと骸の方へと向けると、頭まで布団へすっぽり収まった彼がいる。
もうすぐ三十路を迎えるというのにこの態度はと思うと、自然と綱吉の口元に笑みが浮かんだ。
綱吉は大概この男のギャップに弱いと自覚しつつある。
(もう何年も一緒にいるのに、自分は相当鈍いのかもしれないと自覚しつつもある)



「なあ、明日、商店街のほうに行ってみようよ。デパートとか、大きいツリーもあるかも」
「明日…?世間はクリスマス一色ですからね。そのあとは正月に…暢気なものだ」
「店側からしたら戦争だよ。ここで一年の半分以上の利益をあげるってとこもあるんだから」
「じゃあ、行きますか?僕最近ごみ捨て以外外に出ていないし」
「俺も…コンビニに買い出ししかしてないな」
「仕方ないので彼らの利益に貢献してやりましょう。あと薬局に行きたい。それと…」
「薬局?」
「あれがもうありません。ローション」
「おまっ…だから今日」
「痛いのは嫌いですから。あと、指輪が欲しい」
「指輪?」
「今のうちに既成事実を作ってしまいましょう。君となら子供だって作れそうな気がします。気合いで」
「指輪って…え?婚約的な意味の?あと子供は気合いじゃできないから」
「指輪はまあ気分的なもので。子供は僕の辞書に不可能という言葉はない。プレゼント欲しいですねえ、サンタさん。」
「人の話聞けよ…」
「あ、明日は流石に部屋着はやめてくださいね」
「まあ、流石になあ」
「…楽しみです」
布団から少しだけ覗かせた顔が、ゆったりと微笑むのを見て、時間の力とはすごい、と今まで何度思ったか知れない事を綱吉は再び思う。
あったかくて、自分達が同性という事実に少し切なくなりつつ、それでも、なんとかなってしまいそうな気がするのだ。
じんわりと熱くなりかけた目頭に自分ももう歳かと思いつつ、綱吉は目を閉じた。


「じゃあ、明日」

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