現代戦国漫遊録

獅子と子猫と
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「まあ、そう縮こまんな。楽にしろ」

『は、はい………』

「とは言っても、緊張するに決まってっか」

『はあ…勿論、それもあるんですが……』


――私の目の前には小田原城主・相模の獅子こと北条氏康公が胡座を掻きながら威風堂堂と座っています。

見た目から怖い人かな、と思ったのですが話してみるとそうでもありませんでした。
言葉遣いは決して良いとは言えませんが…。

緊張は依然継続中なのですが、妙に落ち着かないのはきっとこの部屋のせいだと思うんです。



『あの……、此処って氏康さんの自室なんですよね…?』

「あ?そうだが…それがどうした」

『………なんか…賑やかですね、』

「……ああ、小太郎の仕業だ」

『……やっぱり』

氏康さんの自室に招かれた凛を待ち受けていたのは、一面AKBまみれの部屋だった。
小太郎の仕業だとは思っていたが、氏康は嫌がっている様子も見せず至って普通に寛いでいます。


「最初はよ、兎に角落ち着かなくて仕方なかったんだが……段々と愛着が沸くもんなんだよな。コイツらが何者かは知らねぇけどよ」

『……あはは、』

氏康もAKBをお気に入りらしいです。



「あの小太郎を手懐けるたぁ、大したもんだ。
どんな変わり者かと思ってたが…、普通の何処にでも居そうな嬢ちゃんじゃねぇか。拍子抜けしちまったぜ」

『……すみません、普通で…』

「勘違いすんなよ、貶してる訳じゃねぇ。
ただ…あの変わり者の小太郎が興味を示す奴を想像すると、どうしても似たような奴しか浮かばなかっただけだ」

『…小太郎さんは私の事を話してたんですね』

「まあな、混沌を巻き起こす元凶だってな」

『元凶って…』

「まぁ、俺にはそんな風には微塵も見えんがな。ただの普通の嬢ちゃんだ」

『普通ですみません…』

「だから貶してる訳じゃねぇって言ってんだろ」

『……すみません』

「謝ってばかりだな、お前は」

『う……、ごめんなさい』

「……またか」

すみません癖なんです、と申し訳なさそうにまた謝る凛に、思わず吹き出しそうになった笑いを飲み込み、彼女をじぃっと見つめた。


天然なのか、謀っているのか。

そんな自問も純真なその瞳を見れば一目瞭然なのだが。


(もし、後者だとしたら――末恐ろしいもんだぜ)

氏康がぼんやりとこう考えていると、畳から何かが出て来た。



「クク……粗茶ですが…どうぞ…」

『ΣΣうぎゃっ!!』

「テメェ…普通に出て来い、ド阿呆が」

「クク…これが我の普通よ…」

『ビビ、ビックリしたぁ……』

盆を持った小太郎登場。
客人をもてなす小太郎とは…不気味です。






『…あ、忘れてました…!
ちょっと待ってて下さい!』

「……?」

凛は自分の横に置いてあった大きな鞄の中を漁り、何かを探し出した。
それを黙って見つめる氏康。と小太郎。



『……おかしいな…確かに入れたのに……あれ…?入れたっけ……?』

「…おい、どうした?」

『忘れちゃったみたいです……』

「何をだ?」

『手土産です……、
はぁ…何で私ってこんな馬鹿なんだろ……』

凛は残念そうにヘナヘナと項垂れ、その様子を黙って見ていた氏康は息を吐きながら口を開いた。


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