MagicArt
□第3話
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神崎本人は何事かと、柏木に視線を移した。
「橘、お前は分かってない。全っっっっっっっっ然分かってないッッ!!」
「めちゃくちゃタメたな、今」
何の意味があるんだろうか? 尺を無駄に使うんじゃないよ。
そもそも言っている意味が全く分からないし。
「お前、神崎さんがどんなに崇高で気高いお方か分かっているのかぁ!?」
「は?」
「え?」
俺と神崎の声が偶然にも重なった。
と、刹那――千代が柏木の尻をドカッと蹴り上げた。
「ご、ごめんね〜、こいつアホだからさ」
「いや、それは知ってるけどさ……」
「あ、あたし別に崇高でも何でもないんだけど……」
本当に困り果てたように、神崎が苦笑いを浮かべた。
何と言うか……今までも変な奴と思ってたけど、その変にも拍車が掛かった感じだな、柏木。
ん? 神崎の気が逸れている今なら逃げられるじゃないか! ありがとう柏木、お前の犠牲は忘れはしない!
「って! あんたはどこ行こうとしてるワケ?」
そんな矢先、手首を神崎に掴まれた。こいつには全方位に目でも付いてるんだろうか?
「嫌だなぁ、逃げる訳ないじゃないか。ちょっと小腹が減っただけだ」
「そうね、あたしもお昼はまだだし、食堂行きましょうか」
「何ィィッッ!? 橘、テメェ神崎さんと昼飯を一緒するだと!?」
何に反応したかは分からないけど、蹴られて倒れていた柏木が起き上がってそう叫んだ。こいつはどんだけ神崎が好きなんだか……。
「な、なら一緒に行こうぜ? 神崎も別に良いだろ?」
「え、ええ……あたしは別に構わないけど……」
「マジっすか!? イヤッホォォォッッイ!!」
うわぁ……こいつのテンション何なんだ!? 神崎も付いて行けないのかドン引きだ。第一印象としては最悪になったな。
「ねぇ、悠斗、面白そうだしあたしも一緒していい?」
「別にいいんじゃないか? 柏木も来るんだし」
「ええ、千代なら大歓迎よ」
「ありがと、詩織」
ん、この2人知り合いだったのか?
まぁいいか、千代は俺よりも交友関係が広い訳だし、知り合いだとしても不思議じゃない。
食堂に行く面子も決まって、俺達はすぐに向かう事にした。ちなみに、柏木は終始ハイテンションだった。
* * * * *
食堂は校舎よりも学生寮に近い場所にある。初等部から高等部の生徒全員が利用している。
形式として採用しているのはバイキングで、料理の数も量も半端じゃない。さらに値段も安くてほとんどタダメシ状態。
この学園、いつか絶対に赤字になると思う。
そんな食堂は3階建てと言う、よく分からない設計になっている。1階が初等部、2階が中等部で3階が高等部、とか振り分けられていたりするけど、あんまり関係無かったりもする。まぁ、あんまり使わないから分からんが。
「4人座れる場所……空いてるかしら?」
テストも終わって後は帰宅だけの生徒が大半な筈だけど、食堂はかなり混み合っていた。それを目の当たりにした神崎が、トレーを両手で持ちながら呟いていた。
「大丈夫だろ? ここ全校生徒が座れるように設計されてるって話だし」
「そーそー、それに奥の手だってあるしね〜」
「奥の手?」と首を傾げる神崎。最終手段は俺と千代しか分からないみたいだ。
俺は千代と顔を合わせて互いにニヤリと笑う。
「おい、柏木」
「何だよ?」
「席空いてるか分からないから、歩先に4人分取ってきてよ?」
「はぁ? 何でオレが……」
ここまでのやり取りは安易に想像が出来た。
だからこの後が奥の手だ。
「お前、4人分空いてなかったら神崎と飯食えないぜ?」
「よしッ! オレに任せときな! 最高の場所をチョイスしてきてやるぜッ! 待っていてください神崎さん!!」
「え? ええ……頑張って……」
最後の神崎の激励が後押ししたのか、またもや柏木が奇声を上げて走り去って行った。
人でごった返しているのに、スルスルと縫うように進んで行く柏木を、初めて凄いと思わなくはなかった。
「あはは……まさかこんなに上手くいくとは思わなかったよ……」
「だな……とんでもない神崎信者が誕生したな」
「ち、ちょっと……変な言葉作らないでよ!」
いやいや、神崎の名前出した瞬間のあの変わりよう、普通は無いから。きっと信者と呼ばれて奴も喜んでいる事だろう。
それにしてもホント、こんなに上手くいくとは思ってなかったよ。違う意味でビックリだ。