MagicArt

□第5話
1ページ/3ページ


 柏木に連れてこられたのは、高等部1年の教室が並ぶ4階。
 上級生が着ているからなのか、はたまた『3バカ』と呼ばれている問題児が珍しいからか、辺りは少し騒がしくなっていた。
 すれ違う生徒は、全員が後ろでひそひそと何かを話す。
 ひそひそと陰口言うなら、本人居ない所かむしろ聞こえるぐらいで言えっての。

「で、歩が夢中になってるのは誰なの?」
「あれぇ? 今居ないのかな?」

 後輩の行動に若干苛つきながらも、ある教室を覗き込んだ悪友2人の背中を見守る。

「居ないなら戻らねー?」
「いーや、見てく。オレは絶対に見る!」
「あたしもー」

 こういう時だけ息が合うのは何故だろう?

「ちなみに、橘が好きなツインテールの美少女だぜ?」
「マジか! って別に好きでも何でもねえよ!」
「へぇ……悠斗ってツインテ好きだったんだ?」
「いや違うから!」
「じゃあどんな髪型が好み?」
「は?」

 何故か話が変な方向に行きそうな……?

「お前ら静かにしろ、来たぞ」

 千代が詰め寄ろうとした時、柏木がそう言って廊下の方を見た。
 今だけナイスタイミング!
 で、廊下の先を見てみると、向こうから黒髪ツインテールの美少女が登校してきた所だった。
 小柄で可愛い感じ。それが第一印象だ。
 なんだけど、

「どうだ、可愛いだろ」

 何でお前が偉そうなんだ?

「悠斗、本当にじっと見つめてるね? まさか一目惚れ?」
「違うわっ!」
「え?」

 ツッコミを入れた所でそんな声と何かが落ちた音がした。
 振り返ると、そこに居たのは柏木イチオシの美少女が居た。何故か目を見開いて……驚いてる?
 視線はどこに向かっているのか?
 と思っていたら、柏木がいきなり決め顔になった。

「ふっ、ついにオレの魅力が!?」
「「いやいや、それはない」」
「た、橘先輩っ!」
「「「は?」」」

 奇跡的にも3人の声が重なった。


 * * * * *


 時は流れて昼休み。
 路影咲夜と名乗った少女と昼飯を食べる事になった俺達は、みんなで食堂の一角に固まる事となった。

「って、何で先生と矢野が居るんだ?」

 そして非常にどうでもいいが、何故に柏木が居ない?
 ちなみに神崎は千代が呼んだらしい。

「いや、面白そうだったから♪」
「オレは先生に強制参加って言われてな」
「何企んでんだ!?」
「橘くん、騒ぐと路影さんが怖がるでしょ?」

 俺が悪いのか?

「いえ、大丈夫です。橘先輩がどんな人なのか分かりますから」
「ってかお前何で俺の事知ってんだよ!?」

 俺は全くこの少女の事知らないのに。

「わたし、橘先輩と同じ中学の女バスだったんですよ」
「え、何で女バス?」

 尋ねたのは千代だ。他3人は俺がバスケ部だって事を知っているみたいだった。
 そういや矢野が知ってる風だったしな。

「皆さん知らないんですか? 橘先輩は中学時代、バスケ界の――むぐっ……」
「ちょっとこっち来ようか?」

 路影の口を押さえてから、悪いと思うけどずるずると隅に引きずる。
 思い出したけど、確かに中学の女バスに居た気がする。練習とか試合はあんまり見なかったんだけど、よく男バスを見ていたっけ。

「な、何ですか、橘先輩……」
「頼むから余計な事言わないでくれ」
「余計な事って……バスケの事ですか?」

 まるで、「信じられない」とでも言うかのような眼差しに、少しだけたじろいでしまった。

「……ああ、そうだよ。バスケはもう捨てたからな」
「そ、そんな……」

 高校に入ってからは、ボールに触ったのは授業中だけ。しかもドリブルすらあまりやらなかった筈だ。

「今はそれよりも大事な事があるからな」
「大事……ですか?」
「ああ、だから、バスケの話は極力無しだ」

 念を押して、みんなの所に戻る。
 先生と矢野はニヤニヤしていて、神崎と千代が何故か不機嫌オーラを出していた。

「何?」
「何でも無いわよ」
「べっつにぃ〜」

 明らかに不機嫌じゃんか!?

「それはそうとさっきゅん、橘先輩はどう思うのかな?」

 ニヤニヤしていた涼香先生が意味不明な事を聞いていた。ってか、さっきゅんって何?

「……気になります、先輩の、今大事な事が知りたいです」
「は?」
「教えてあげよっか?」
「先生!?」

 声を上げたのは、俺ではなく神崎だった。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ