MagicArt
□第5話
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柏木に連れてこられたのは、高等部1年の教室が並ぶ4階。
上級生が着ているからなのか、はたまた『3バカ』と呼ばれている問題児が珍しいからか、辺りは少し騒がしくなっていた。
すれ違う生徒は、全員が後ろでひそひそと何かを話す。
ひそひそと陰口言うなら、本人居ない所かむしろ聞こえるぐらいで言えっての。
「で、歩が夢中になってるのは誰なの?」
「あれぇ? 今居ないのかな?」
後輩の行動に若干苛つきながらも、ある教室を覗き込んだ悪友2人の背中を見守る。
「居ないなら戻らねー?」
「いーや、見てく。オレは絶対に見る!」
「あたしもー」
こういう時だけ息が合うのは何故だろう?
「ちなみに、橘が好きなツインテールの美少女だぜ?」
「マジか! って別に好きでも何でもねえよ!」
「へぇ……悠斗ってツインテ好きだったんだ?」
「いや違うから!」
「じゃあどんな髪型が好み?」
「は?」
何故か話が変な方向に行きそうな……?
「お前ら静かにしろ、来たぞ」
千代が詰め寄ろうとした時、柏木がそう言って廊下の方を見た。
今だけナイスタイミング!
で、廊下の先を見てみると、向こうから黒髪ツインテールの美少女が登校してきた所だった。
小柄で可愛い感じ。それが第一印象だ。
なんだけど、
「どうだ、可愛いだろ」
何でお前が偉そうなんだ?
「悠斗、本当にじっと見つめてるね? まさか一目惚れ?」
「違うわっ!」
「え?」
ツッコミを入れた所でそんな声と何かが落ちた音がした。
振り返ると、そこに居たのは柏木イチオシの美少女が居た。何故か目を見開いて……驚いてる?
視線はどこに向かっているのか?
と思っていたら、柏木がいきなり決め顔になった。
「ふっ、ついにオレの魅力が!?」
「「いやいや、それはない」」
「た、橘先輩っ!」
「「「は?」」」
奇跡的にも3人の声が重なった。
* * * * *
時は流れて昼休み。
路影咲夜と名乗った少女と昼飯を食べる事になった俺達は、みんなで食堂の一角に固まる事となった。
「って、何で先生と矢野が居るんだ?」
そして非常にどうでもいいが、何故に柏木が居ない?
ちなみに神崎は千代が呼んだらしい。
「いや、面白そうだったから♪」
「オレは先生に強制参加って言われてな」
「何企んでんだ!?」
「橘くん、騒ぐと路影さんが怖がるでしょ?」
俺が悪いのか?
「いえ、大丈夫です。橘先輩がどんな人なのか分かりますから」
「ってかお前何で俺の事知ってんだよ!?」
俺は全くこの少女の事知らないのに。
「わたし、橘先輩と同じ中学の女バスだったんですよ」
「え、何で女バス?」
尋ねたのは千代だ。他3人は俺がバスケ部だって事を知っているみたいだった。
そういや矢野が知ってる風だったしな。
「皆さん知らないんですか? 橘先輩は中学時代、バスケ界の――むぐっ……」
「ちょっとこっち来ようか?」
路影の口を押さえてから、悪いと思うけどずるずると隅に引きずる。
思い出したけど、確かに中学の女バスに居た気がする。練習とか試合はあんまり見なかったんだけど、よく男バスを見ていたっけ。
「な、何ですか、橘先輩……」
「頼むから余計な事言わないでくれ」
「余計な事って……バスケの事ですか?」
まるで、「信じられない」とでも言うかのような眼差しに、少しだけたじろいでしまった。
「……ああ、そうだよ。バスケはもう捨てたからな」
「そ、そんな……」
高校に入ってからは、ボールに触ったのは授業中だけ。しかもドリブルすらあまりやらなかった筈だ。
「今はそれよりも大事な事があるからな」
「大事……ですか?」
「ああ、だから、バスケの話は極力無しだ」
念を押して、みんなの所に戻る。
先生と矢野はニヤニヤしていて、神崎と千代が何故か不機嫌オーラを出していた。
「何?」
「何でも無いわよ」
「べっつにぃ〜」
明らかに不機嫌じゃんか!?
「それはそうとさっきゅん、橘先輩はどう思うのかな?」
ニヤニヤしていた涼香先生が意味不明な事を聞いていた。ってか、さっきゅんって何?
「……気になります、先輩の、今大事な事が知りたいです」
「は?」
「教えてあげよっか?」
「先生!?」
声を上げたのは、俺ではなく神崎だった。