MagicArt
□第3話
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翌日、テスト3日目。
この日はいつも以上に早く家を出て、学園に向かった。と言うか……まだ7時にもなっていないんだよな。早過ぎじゃねえ?
「遅い!」
学園に着いて高等部の昇降口に入った瞬間、開口一番そんな事を言われた。
もちろん、言ったのは神崎だ。腰に手を当て、2つに結った髪が呼応するように跳ねた。何故かご立腹のようだ。
時刻は7時ジャスト。何で怒られた!?
「7時に登校してきてって言ったら、普通はその5分前までには来るでしょ?」
ここで、「そんなの知るか!」とかは間違っても言えない。勉強教えてもらう身だし。
だから素直に謝っておこう。
「悪い、あんまり早起きは得意じゃないんだ」
「……まぁいいわ。これ以上遅れない為にも早く行くわよ」
なんと言うか……嫌われてる感じが……気のせいか?
歩き出した神崎に気付かれないよう、小さく溜息を吐いてから、神崎の後を追った。
神崎が向かった先は、教室棟と特別棟の3階の間にある喫茶店。時間が早いから全く人は居ないけど、昼休みとか放課後は暇を持て余す生徒でいっぱいになる。
それもその筈で、メニューはどれも安くて美味くて、しかもオーダーしてから出て来るのが早いのだ。そりゃ空席も埋まる訳だ。
「橘くん、朝食は食べたの?」
適当な席に座り、本日のテスト科目の教材を取り出していると、向かいに座った神崎がそう尋ねてきた。
「今日は早過ぎてそんな余裕は無かったよ」
「そう、なら食べながらやりましょ」
神崎の提案に素直に乗って、俺は軽めにサンドイッチとコーヒー、神崎はホットドッグと紅茶をオーダー。空いているからかいつもより早く来た気がする。
と言うか、神崎も食べてなかったのか、朝食。俺よりも早く来てたし、ちゃんと食べてたと思ってた。
2人して朝食をかじりながら、神崎は俺に勉強を教えてくれた。
その教え方がまた上手く、問題の解き方を教えるんじゃなくて、解くにはどうすればいいかのヒントを与えるだけだ。解き方は自分で考える訳だから確かに力は付く。
そんな感じで勉強ははかどって、気付けば時刻は8時20分になっていた。
「ふぅ……久々にこんなに勉強した……」
いつも勉強なんかしないから、疲労感はいつもより倍に感じる。
とは言え教えてもらえたのは良かった。時間が少ないから浅く広く教えてもらえたから、もう今日のテストで赤点はとらないと思う。むしろ、これでとったら神崎に何されるか分かったもんじゃない。
「それにしても……橘くんの呑み込みが早くて驚いたわ……」
「そうか?」
自分はひたすら問題を解いていたから、呑み込みが早いとかそんなのは分からなかった。
問題が早く解けたのは神崎の教え方が良かったからだろうし。
「もしかして……ちゃんと勉強すれば成績良いんじゃないの?」
「さぁ……どうだろうな?」
ちゃんと勉強する気力と体力とやる気が絶対に無いからな。と言うか、正直進級卒業出来る学力があればいいや。
まぁ……現在進行形で赤点とりそうな訳なんだがな。
「今日はサンキュな。赤は無さそうだ」
「当たり前よ。あたしが教えて赤点なんか付いたら怒るじゃ済まないんだから」
何されるんだろう?
「じゃ、テスト終わったらまたここに集合ね?」
「何で?」
「何でって……テストは明日もあるのよ? 今日の分は1時間しか無かったけど、明日のはたっぷり勉強出来るんだから」
「なっ……!?」
こいつのたっぷりって……2、3時間じゃ済まない気がする。多分、捕まったら日暮れまで解放されないだろう。
……ここはあれだ、逃げよう。1日中勉強に縛られたら死ぬって。
「あ、ああ……分かった、放課後にここでな」
表情が引きつらないように言って、俺は自分の教室に逃げるようにして向かった。
* * * * *
結論――逃げられませんでした。
なぜなら、
「念の為に迎えに来て正解だったわね」
そう、神崎が教室の前に居たからだ。
せっかく千代と柏木を振り払って来たと言うのに、まさか神崎が居るとは思いもしなかった。
「な……何でお前がここにッ!?」
「お前とか言うなッ!!」
何故かそんな言葉が後ろから投げつけられ、振り返ってみると柏木が居た。
その隣では千代が苦笑いを浮かべている。
……何で柏木が怒るんだ? いやいや、そもそも何で怒った?