MagicArt

□第1話
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 季節は夏。
 7月も始まってから既に1週間が経過し、気温は日々上昇しているそんな季節に、俺――橘悠斗が通っている、ここ――灯之坂学園では、目下期末試験中である。
 ちなみに、灯之坂学園――通称『灯の校』は小中高とエスカレーター式の大きな学校で、全校生徒は実に2000人を超えている。どこかの資産家が自分の財産を擲(なげう)って建てた学校で、設備は常に最新式、購買や食堂は街の所よりも安い。地元ではかなり有名な学校だ。毎年小中高と受験もあって、倍率はどこでも3倍を超える。そんな進学校だ。

「橘っ、遊びに行こうぜっ!!」

 そんな進学校にも、目下試験中にそんな事を言ってくる奴は居るものなんだ。
 そう言う奴の大半が、世間一般で『落ちこぼれ』と言う分類に流れてしまうらしい。もちろん俺もそれに入る。
 ちなみに、今話しかけてきたのは俺の悪友、柏木歩だ。

「お前、今テスト中だって忘れてないか?」
「大丈夫大丈夫、何とかなる何とかなる!」
「いっつもそんな事言ってるよな?」
「大丈夫だよ悠斗。あたしらはもうテストは一夜漬けに賭けたから!」

 グッと親指を立てて言ってきたのは、俺のもう1人の悪友、二階堂千代だ。名前から分かると思うけど一応言っておくけど、こっちは女の子である。腰まである長い髪をポニーテールにしてるのが印象。
 俺と柏木、それから千代の3人は、このクラスで――いや、この学校では落ちこぼれの問題児と言う認識になっている。言い方を変えれば不良だな。

「賭けるなよ……赤点取って夏休みに補習は絶対嫌だからな、俺は」
「それはあたしらも嫌だけどさ……」
「今さら足掻いたって無駄だろ?」
「足掻こうとすらしてない奴に言われても説得力皆無だぞ? お前ら、今日のテストどうだったんだよ?」
「「…………」」

 そう尋ねると、2人してあからさまに黙ってしまった。
 駄目だったって言ってるようなもんだな……。

「だから今日遊び行こうって言ってんじゃんかよぉ〜っ!!」
「悠斗だけ3バカを裏切る気なのーっ!?」
「んな括り聞いた事ねえから!」

 もしかして、3バカとか言われてたのか?

「はぁ……まぁいいけどさ……金無いぜ?」
「そこは大丈夫だ」
「うん、みんなで割り勘でカラオケだから」

 カラオケって割り勘関係無しに個別料金じゃなかったっけ?
 そんなツッコミは心の中に秘めて、俺は仕方なくカラオケに向かう事になった。


 * * * * *


「あれ……携帯が無い……」

 カラオケで遊びほうけたその帰り、ポケットに突っ込んだ手は、いつも入っている筈の携帯電話の感触を感じる事が出来なかった。

「どしたの悠斗?」
「いや、どっかに携帯忘れたみたいだ」
「ははっ、アホだなー」
「お前にだけは言われたくなかったよ。……探してくるから、柏木達は先に帰ってくれ」
「言われなくてもな」

 そう返してきた柏木の言葉に苦笑いしてから、俺は2人と別れて学校へと向かった。


 * * * * *


 2人と別れた時間がそもそも遅かったんだけど、学校に着いた頃には日が暮れてしまっていた。
 当然校門は閉まってるけど、俺は校門を乗り越えて高等部の校舎に向かう。正門から一番近いのは初等部。その次が中等部。そして一番遠いのが高等部の校舎だ。距離にして100メートル以上はある。
 どこかの資産家さんはもう少し近くに建てられなかったのかと、俺は入学前から疑問に思い続けていた。
 校舎に行くと、当然ながら明かりは無い。
 一応この学園には中等部と高等部には学生寮があり、寮生でなければこんな時間に残っている生徒はまず居ない。
 それで昇降口の扉は開いてる筈は無いのだが――

「ありゃ……開いてる……」

 どうしてだ? と首を傾げるけど、とりあえずラッキーと思っておこうか。
 校舎に入って、教室棟3階にある2年D組に向かう。自分の机の中を漁ってみると、簡単に携帯は見つかった。
 さて帰ろうか。と立ち上がった瞬間、変な音がした。

「何だ……?」

 変な音としか表せないその音は、それから続けて聞こえた。
 廊下に出てみると、特に異常という異常は見当たらない。

「……気のせい、って事にしておこう。面倒事には関わりたくないし」

 うん、そうしよう。
 そう思いながら昇降口に向かって歩く。
 そんな中、月の光だけが明かりとなっている校内で、人影を見つけた。
 こんな夜中の校舎に、遠いし暗いけど、腰まである長い髪で、その人が女の子だと分かった。。
 何やってんだ、こんな時間にこんな所で?

「ま、いいか……俺には関係無いし……」
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