書架(CYパラレル)

□1.ただいま、おかえり
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「ユーリ、ただいま。 ……ユーリ?」
いつもより帰宅が遅くなってしまい、ユーリが拗ねているだろうなと覚悟しつつ玄関のドアを開いたコンラートは、出迎えに出てこない辺り彼は相当機嫌が悪そうだと思った。
秋から冬に季節が移り変わっている昨今、この時間は電気を点けないとすっかり真っ暗になってしまうのだが、彼は気にしていないようだ。
「ユーリ?」
声をかけ乍ら靴を脱いで上がると、廊下の電気が自動で点く。明るくなった廊下を進み乍ら、恐らく彼は自分の部屋にはいないだろうと当たりをつけて、真っ直ぐリビングへ向かう。
こちらも明かりが点いておらず真っ暗で、取り敢えず電気を点けようと、手探りで壁のスイッチを探し当てた。
「ユーリ」
パチン、とスイッチを入れて明るく照らされた室内の真ん中に、探し求めていた小さな背中を見つけた。
「御免ねユーリ、遅くなった」
惨憺たる有り様の部屋に足を踏み入れ乍ら、いつも通り話しかける。リビングが強盗でも押し入ったあとのように散らかっているのは、恐らくユーリが癇癪を起こしたあとだ。
ユーリは溜めたストレスを上手く処理出来ず、癇癪を起こしたように暴れることがある。そうして適度に発散しなければ彼自身が駄目になってしまうのだが、今日のこの状態はコンラートの帰宅が遅くなったことで彼を不安にさせてしまった結果だ。
こんなことなら矢張りヨザック辺りに頼めば良かったかとも思うが、彼はユーリの教育上宜しくないことを吹き込むことがある為、出来れば避けたいところだ。
ユーリを驚かせないようにそっと前に回り、膝をついて顔を覗き込む。
黒曜石を思わせる黒い大きな瞳からは涙が零れ、頻りに小さな手で涙を拭っている所為か目許が真っ赤なのが痛々しい。
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