色々

□夏髪
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暑い。
夏はそもそも暑いものだが、此処は尚更だ。
近くを火山の脈が通っていたりするものだから。
そんな彼―ゴジラの家にうざキングことキングギドラが押し掛けたのは
まさにゴジラが暑さにうなだれて卓袱台に突っ伏したその時だった。

『ヘイ兄弟!』
「ハッロー!愛しのゴジラ!わ・た・し、だよーー!!」
『遊びに来たぜ!』
「…………………………うぜぇ…………。」

いつもならばこの時点で出鼻を挫かれたよろしく
鼻骨に拳の一つがめり込んでいてもおかしくは無い。
が、今日は違う。
ゴロリと伏せった卓袱台から一瞥呉れてやっただけで、再び反対方向に向かれただけだ。
あまりにあっさりした反応に、キングギドラは一瞬キョトンとした。

『なんでぇ、珍しいじゃねぇか。』
『今日は萎れてやがるな。』
「な…何か有ったの?」

右竜と左竜で巧みに会話を繋げながら、そろーっと距離を縮めてみる。
と、ギロ!と再びこちらをむいたゴジラが
顔にかかる髪も払わずその隙間から目を光らせる。

「ペラペラうるせぇ。」

会話をする気などさらさら無いらしい。
一方的にそう告げると、暑さから目を背けるように目を閉じてしまった。

会話が途切れると、物音が途切れる。
夏特有の外の音だけが虚しく二人の間を流れた。

「あ…あっ、そういえば…」
「あ゛?」
「ちょ、ちょっ!待って待って!」

右竜の口で左竜の口を挟み、“五月蝿くするつもりは無いよ”のポーズを取ると視線を彷徨かせ左右を見渡した。

「おチビちゃん達は?」
「…プールだ。カメ公の引率でトトと一緒に……人間のな。」
「あ、あぁ…なる程…。それでうなだれてるんだ?」
「ただ暑いんだよ。馬鹿が。」

間違い無く、愛息子が人間の遊び場に行ってしまった事に対する想いも有るのだろう。
が、事実暑さにうなだれているというのも半分は本当なようだった。

上手い返しが見つからず、再びそこで沈黙が流れた。
またそろーっと、距離を縮める。

「それじゃあ私と涼しい河原にでも遊びに行こうよ!」
「アイツラがいつ帰って来んのかわかんねぇだろうが。」

会話は切り捨てられる。

「そんなに暑い?」
「…あぁ。」
「私が扇いであげようか?ほら、私羽有るし、」
「今このうざってぇ暑さの中であのうざってぇ金キラの暑苦しい羽を暑がってる俺の目に晒そうもんならてめぇの羽、根元から綺麗にもぎ取ってついでに歯ァ全部折って鼻の穴に詰めるからな。」
「………。」

キングは完全に沈黙した。
ただの脅し文句に聞こえる言葉だが、間違い無いだろう。彼は本当にソレを実行する。それは一番己が身に染みている筈だ。
仕方なく、またちょっとだけ距離を詰めた。
暑い、と言ってまた反対方向に顔を向けるゴジラの後頭部を眺めながら、ふと一つの考えが頭をよぎった。

「あの、さ…」
「…あんだよ…」
「髪、括ったらどうかな?」
「はァ?」
「結構違うよ。結ぶだけで。」

そういえば、と思いゴジラは顔をキングに向ける。
彼もその長髪には暑さを感じたのか、金の髪はポニーテールの形状で結わえてある。
確かに首周りは随分と涼しくなりそうだ。
暫くジッとキングを眺めていたが、ぷいと顔を背けると一言。

「面倒くせぇ。」

もはや息子達が居ないと動く気すら無いのか。
キングは手に嵌めてある竜の人形を外した。

「…私がやってあげるから。」
「あー?勝手にしろ。」
(…!やった!)

思いもよらない返事に、キングは心の中でガッツポーズを取った。
予備の髪紐を取り出すと、いそいそと作業に取りかかる。
普段、一定距離に近づくだけで睨まれ殴られ蹴られ投げ飛ばされetc.されている彼にとって
この距離は奇跡だった。

相手が卓袱台に頭を預けた状態で髪を結わう事はなかなかに難しかったが、
是幸いとばかりにその時間を楽しむ事にしたのだった。




チク、チクチク…

「ゴ、ゴジラ…君の髪ってさ、物凄く固く無い?」
「はっ!ざまぁみろ。」
「…!!」

指に髪が刺さりまくってもその行為を止めなかったのは、
彼の根性の賜物であった。





終.

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