Silent Sweetheart 【41〜**】

□Silent Sweetheart 【41】
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 いままで一度も聞いたことの
ない言葉だ。
 そして、そうと知ってしまえ
ば是が非でも言わせてみたくな
る。
 達海に望まれたら、きっとそ
れはなにより甘いものだろう。
 いますぐ達海に触れたいのに
それを許されないなんて拷問に
近い。
 村越は深くため息をついて、
開いたエレベーターから下りた。

「……ン、ダメだって、堀田く
ん……明日まで待とうぜ」

 しかし、割り当てられた部屋
へ行こうとしたところで、聞こ
えた甘い声に固まる。

「石神さん……、」

 切羽詰まった声は確かに堀田
のものだ。

「なんか最近バタバタしてたも
んな。だから、ヤってなくて溜
まってんのは俺もだって。早く
堀田くんの突っ込んで欲しいん
だぜ? でも俺、試合前はヤん
ない主義なわけよ」

 腰に力入んなくなるから――
と、石神が笑った。
 待て、堀田と石神はそういう
仲なのか? と、固まってしま
う。
 石神はてっきり達海に惚れて
いると思っていたが……と考え
て、丹波が石神は達海にフラれ
ていると言ったことを思い出し
た。

「明日帰ったらたっぷり、な?
俺ん家で朝までヤりまくろうぜ」
「……そこまで言われるとなん
か萎えるぞ」
「お、マジでか。んじゃ、ここ
でくわえてやるから頑張って勃
たせろ」
「なっ、」

 室内ではなく、廊下の、角を
曲がったすぐそこでよもやまさ
か、と思った途端に声が出てし
まい、しまった、と思ったとき
にはもう遅かった。

「コ、村越さん!? いまの、
聞いて、」

 ひょこりと顔を出したのは堀
田の方で、村越の姿を目に止め
ると、さぁ、と顔が青くなった。
 といって、こちらもマズイと
ころに行き会ったので、なんと
も言い難い。

「スマン、立ち聞きするつもり
じゃなかったんだが」

 言いながら目を逸らす。
 今日は二度も不用意に人の話
を聞いてしまい、後ろめたさは
最高潮だ。

「あれ、村越さん……見ます、
俺が堀田の舐めるところ?」
「石神さん!」
「遠慮する!」

 石神の挑発的な言葉に、堀田
と村越の声が重なる。

「うわ、冗談だって」

 ハンズアップしながらわずか
にのけ反る石神はいつも通りの
マイペースさで堀田の肩にもた
れ掛かった。
 堀田の方はわずかに顔をしか
めながら、それでも頬が少しば
かり赤らんでいる。

「……石神は、堀田が好きだっ
たのか」

 驚きを隠しきれずに尋ねると、
堀田が少しだけ痛そうな顔をす
る。

「堀田、後でお仕置きな」
「はっ?」

 そんな堀田の様子をちらりと
見た石神が、いたって普通の様
子で言って、不穏な言葉に堀田
の顔が強張る。

「んー、俺、達海さんのこと、
まだ好きスよ」
「……、」

 答えにはなっていないのに問
いたい本質をズバリと答えられ、
思わず言葉に詰まったところが
情けない。
 村越はひそかに奥歯を噛み締
めた。

「うわ。村越さん、顔怖ぇー!」

 その様子をいつもの、いつも
通りの、左右非対象な笑みでか
らかう石神は少し達海に似てい
る気がした。
 強心臓ぽいところが。
 しかし、決定的に違うところ
もある。
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