Silent Sweetheart 【派生】

□One Day >> Can you love me ?
2ページ/4ページ

「……まったく」

 仕方のない先輩共だ。
 堀田は深いため息をついてか
ら石神の腕を首に回して体を起
こした。

「なんだかんだ言う割に、実行
してくれるんだよな、お前」

 嫌な笑いを張り付かせている
丹波をジト目で睨んでから玄関
に向かう。
 どっこいしょ、と言いながら、
堺が立ち上がって見送りにきた。

「……頼むぞ、堀田」
「は?」
「そいつが自分からお前を嫌が
るってことは、お前がいたらガ
ラにもなく甘えたくなるってこ
とだ」

 堀田はもう一度、は? と返
した。

「なにワケわかんねぇこと言っ
て……酔ってんのか、堺さん?」
「全然わかんなくないだろうが。
達海さんにフラれたのを、お前
なら癒しちまえるから嫌がって
んだ、そいつ」

 いや、全くわからない。
 知らず思い切り眉をひそめる
と、堺は軽く苦笑した。

「現金な奴だと思われたくない
んだろ」

 石神は、お前に惚れてるから
――耳にした言葉の意味を掴み
損ねた。
 はぁ、と間の抜けた声をだす
と堺の苦笑が深くなって、手振
りで「行け」と追い払われる。
 エレベーターに乗って駐車場
まで行く間中、堀田は堺が言っ
た中身について精査しなかった。
 車の後部席に石神を寝かせた
時点でようやく、そんな馬鹿な、
と思う。
 石神が自分を?
 有り得ない。
 石神が達海に、本気になった
からこそ手出しできなかったと
丹波が言った。
 堀田もその通りだと思ってい
る。

「でなきゃ、止める理由なんて
ないからな」

 気持ち悪いのか、苦しそうに
呻いている石神をじっと見つめ
る。
 赤くなっている肌に汗が浮か
んでいた。
 堀田は出掛けに買ったミネラ
ルウォーターのボトルに口をつ
けると、含んだ水を石神に飲ま
せる。
 三度ほど続けると少し楽にな
ったようだったので、堀田はよ
うやく運転席に乗り込み、発車
させた。
 そのまま揺れを極力抑えた走
行を心掛けつつ石神のマンショ
ンについて、三階の部屋に入る。
 開錠の仕方、マンションの造
り、駐車スペースはどこで石神
の部屋がどうなっているかまで
熟知しているから、なんの問題
もなく石神をベッドに寝かせて
やれた。
 堀田は堺の部屋より石神の部
屋に来る回数が多く、サッカー
の話から恋愛の話、果てはどう
でもいいくだらない話まで繰り
広げる場所である。

「う〜……」
「……石神さん?」

 石神が低く呻きながら丸まる
のをベッドの端に腰掛けて眺め
ていると、寝返りを打つタイミ
ングで堀田の腰にしがみついて
きた。
 ぎゅいぎゅいと抱き着いてく
る石神は額をグリグリと堀田の
腰に擦り付けてきて、くすぐっ
たいやら下腹に巻き付いた腕に
動揺するやらで忙しいことこの
上ない。

「おい、ガ、石神さん」
「ん〜……ほったぁ……」

 ドキリとする。
 意識があるのかと思って振り
返ろうとするが、石神の顔を確
かめることはできなかった。

「堀田……アホー……」
「……」
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ