Silent Sweetheart 【派生】

□Silent Sweetheart 【番外編 02】
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 ルーキーの年から数年、気付け
ば何故か、チームリーダーを仰せ
つかっている自分はあの頃からは
かなり成長した。
 それと共に大きくなる責任やプ
レッシャー、急速に伸びた自分の
フットボールが、徐々に何かを歪
ませていたが、それを吐き出せる
後藤は側にいない。

「大丈夫だ、お前が力いれて教育
しなくてもいいようなルーキー入
れてやったから、適当にやっとけ」
「なんだよ、それ」
「えーとな……お、いたいた、あ
いつだよ。あのゴツイ奴」

 今年のルーキー達が調整を終え
てクラブハウスから出て来たとこ
ろを、笠野が指差す。
 その先にいたのは、昨日入寮し
たばかりのゴツイ奴だった。

「村越ってんだ。大学でいいプレ
イしててな。あいつ、お前と一緒
にサッカーしてみたくてETUに
入ったって言ってたぜ」
「えー、そうなの? なんだか物
好きだね」
「物好きってお前、いまのお前に
憧れて入ってくる奴は結構多いん
だぞ?」
「……ふーん」

 気のない返事をする。
 達海が求めるフットボールは、
チーム内の誰もが主役になれる、
それぞれが自分の役割を担い、自
ら見せ場を作ってピッチの中で存
分に楽しめるような、そんなフッ
トボールだ。
 より自由度の高い、個々の能力
を発揮できるチームになったら、
きっともっと楽しいと思う。
 達海には達海の、あのルーキー
にはルーキーの持ち味がある。例
え同じポジションだとしても、得
意なものは違うのだ。
 そう考えている達海にとって、
自分に憧れられても困っちゃうん
だけど、という感じである。

「おーい、村越!」
「っス、笠野さん……達海さん」
「おぅ。なぁ、村越ー。お前、オ
ンナいんのか?」
「は?」
「おーい、笠さん、なに言ってん
の?」

 村越という、自分より年上なの
ではないかと思うような顔をした
ルーキーが怪訝そうに笠野に見上
げて、達海も首を傾げる。

「いや、オンナいたら達海と村越
って組み合わせはやめようと思っ
てよ」
「はぁ? ねぇ笠さん、村越のカ
ノジョと俺と、なんの関係があん
だよ?」

 わけがわからない。
 笠野の言うことはときどき全く
理解できなくて、達海は助けを求
めるように村越を見た。

「……、」

 ドキリとする。村越はずっと、
強い眼で達海を見つめていたのだ。

「別にオンナなんていないっスよ」
「そうかそうか。んじゃ、達海、
頼むぜ」
「だから、なんで村越のカノジョ
と俺が関係あんの!」

 貫かれるような視線を振り払い
たくて笠野に抗議すると、笠野は
達海を振り返ってニヤッと笑った。

「そりゃあお前、お前の世話を村
越がすんだぞ? オンナがいる奴
には任せらんねぇだろうよ」
「えっ、俺が世話されんのっ?」
「当たり前だろうが。いくらある
程度まともになったっつっても、
お前は本気で手間のかかる奴だか
らな」

 笠野に言い切られた達海は絶句
しつつ嫌な顔をし、村越はじっと
達海を見つめたままで、ウス、と
返事をした。
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