Short Story

□From your White Knight
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 思いの外やわらかな手つきに
キョト、として、次いでぽっと
頬を染めた。
 不覚にも心臓が跳ねたのがな
んとも悔しい。

「達海さん、顔赤いスよ」
「うっさい」

 清川のツッコミを一言で蹴散
らし、達海はふたつの袋をぶら
下げたまま、グラウンドに向か
う。
 どうやら清川は早くにお返し
を渡したかったらしく、クラブ
ハウスの中で張っていたらしい。

「よく見てるよなー、意外だっ
たよ」

 笑う達海はいたってあっけら
かんとしているが、清川と村越
は苦笑いというか呆れている。

「なんで見てたのかには気づい
てくれないんだよなぁ……」
「仕方ねぇだろ、達海さんだぞ」

 達海の鈍さは折り紙つきだ。
 というか鉄壁だ。
 むしろその鉄の厚みは一メー
トルくらいありそうである。

「いままでに誰か突破したこと
あるんスかね」
「さぁな」

 そんな会話をしているとは夢
にも思わない達海がグラウンド
に到着すると、清川の予告通り
にお返しプレゼントの山が待っ
ていた。
 椿からはクッキー、世良はフ
ィナンシェ等の詰め合わせ、赤
崎は焼きドーナツ……各々あま
り高くないものをチョイスして
いるあたりが実に聡明だ。
 ファミリーパックだのバラエ
ティーアソートだので高すぎる
ものを返されたらむしろ受け取
れないところである。
 ジーノでさえ、達海が気を遣
わないように配慮したブラウニ
ーだった。
 そんな中、他と一線を画して
いたのは堺である。

「あ、これは嬉しい!」

 達海が礼より先にはっきり言
ったので、一同が慌てて覗き込
んだ達海の手元には、大量の煎
餅が入った袋。
 そのときになって、皆が「し
まった」と思ったのは言うまで
もない。

「甘いの食ったらしょっぱいも
ん食いたくなんだろ」
「だよな。さすが、堺はわかっ
てるなぁ」
「待て、だからって食い過ぎな
いでくださいよ? ただでさえ
こんなに菓子ばっかりもらって
んスから」
「わかってるって。ほんとにお
前は、そゆとこ厳しいよな」

 ぶつぶつ呟きながらも、達海
は手に持った煎餅を大事に抱え
ている。
 誰がどんなものを贈るのかわ
からないとは言え、あまりにも
甘い物ばかりでは困るのも無理
はなかろう、と堺以外の全員が
後悔している中で、沈黙を破っ
たのは若くて短気な赤崎だった。

「お返しプレゼントついでに聞
いてもらえますか」
「え、なに、突然」

 ズイっと迫った赤崎が達海の
手を握って、驚いて目を見開い
た達海に、若い男が迫る。

「好きです、付き合ってくださ
い」
「は?」

 はぁっ!? と、達海以上の
反応を示したのは選手たちであ
る。
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