Short Story

□ぴんなっぷ・はにぃ
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 ふわりとした、柔らかな笑み
――まるで愛しい人と見つめ合
っているような視線がカメラに
収まっている。
 このピンナップを見た誰もが
その視線に絡め取られて、自分
が彼と見つめ合っているような
錯覚に陥るというわけだ。
 男のくせに、同性には興味の
ない男までもを魅了する無自覚
の微笑みを浮かべ、浮かぶシル
エットがいっそ全裸よりも性的
なその男。
 ピンナップに写っているのは
ETUの監督、達海だった。
 もともと無自覚無節操に男を
惹きつける力を持つ達海だが、
このピンナップは完全にそれら
を煽る結果となっている。

「普段から凄いのに、こうなっ
たらもう犯罪級の色気だな」

 堀田の呟きには、全員が頷く。

「しかも、股間だけ見えなくな
ってんのがまた性別微妙にして
んじゃん。達海さん、脚きれい
だし」

 丹波の言うとおり、光の辺り
具合のせいで肝心な部分はシャ
ツが透けてはおらず、その裾を
わずかばかり持ち上げてくれと
いうのがこれまた全員一致の意
見であった。
 決して女性的ではないし見る
からに男で間違いないのに、達
海を知らない者がこのピンナッ
プだけを見ると男女の判断に迷
うというのは、この写真を撮っ
た人物とインタビュアーの対談
を読めば明白な事実である。

「つーか、達海さんはいつこん
なとこ行ったんスかね。いった
いどこのログハウスなんだよ、
ここ」

 この場の全員が、あの裾をめ
くりたい、シャツの中身を直に
拝みたい、などと思っていたと
き、赤崎が自分のバックから取
り出した例の雑誌、問題のその
写真を開いてボソリと呟いた。

「……やべ、」

 しかし、じっと見つめていた
かと思うと、バックを置いて雑
誌を持ったままトイレの方向へ
姿を消してしまう。
 椿はそんな赤崎をぽかんとし
て見つめるしかない。

「あー……まぁ、一発抜いたら
帰ってくるだろ」

 ひょい、と赤崎の行方を眺め
た石神がいつものマイペースな
笑みを浮かべながら呟き、椿と
宮野が汚してしまった写真を覗
き込んだ。

「確かになぁ。どこだろ、これ。
村越さん知ってます?」
「俺が知るか」

 ため息をつきながら着替えを
始めた村越だが、やはり気にな
るようで、雑誌の方に意識を向
けているようである。

「つーかお前ら、元気良すぎだ
ろ。飛ばしすぎ」
「て、お前だって似たようなも
んだったじゃねぇか、石神」
「なっ、丹さーん……若手のい
るとこでばらすのやめようぜ」

 慌てて白いものをティッシュ
で拭う宮野と椿を余所に、ベテ
ラン勢はそれぞれ漫才よろしく
ぎゃいぎゃいと騒いでいる。
 世良だけは、真っ赤になりな
がらなるべく雑誌を見ないよう
にして着替えていて、椿がハテ
ナマークを飛ばしながら声を掛
けようとしたときだった。

「おーい、世良来てる?」

 ガチャリと無遠慮に開いて、
噂の達海が顔を出したではない
か。

「た、達海さん! 来ちゃダメ
っス!」
「へっ? え、なに……うわ、
世良っ?」

 上はジャージ、下はカーゴパ
ンツの世良が達海を連れて走り
去っていくのを、全員が呆然と
見送るしかなかった。



 ※ ※ ※


「だって……しょうがないじゃ
ん。どの写真使うとか、言って
なかったもん」

 ぷぅっと膨れる達海は、膝を
詰めてくどくどと説教をたれる
世良にむくれて見せた。
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