Short Story

□明けまして、本日も
2ページ/5ページ

 黙って達海の肩を抱く村越か
らわずかに目を逸らしつつ、若
手連中は居心地が悪そうだ。

「帰ってくんの、夜じゃなかっ
たのかよ」
「夜まで待てなかった」
「なにが」
「あんたとのキスが」

 軽く睨みながら、悪態のつも
りで言ったことには、しかし達
海の隠し切れない照れを上回る
衝撃発言が返って来て、赤崎が
箸を取り落とした。

「悪いが恥ずかしいのは我慢し
てくれ」

 言った次の瞬間、達海の唇に
村越の唇が重なって、達海が拒
めないのをいいことに熱くて深
いキスを見舞われる。
 拒めるはずのない愛しい男か
らの口づけは、舌が絡まり唾液
が混ざって、貪られるように激
しいものだ。
 それが、一度ではなく何度も
繰り返される。

「ンっ……む、村越……もっ、
んっ!」

 ここが食堂でなければとっく
に押し倒されて剥かれているだ
ろうと思うような濃厚なキスに、
人前だという恥ずかしさは意識
の片隅に追いやられてしまった。
 あまりの激しさに、達海との
関係に気づいていたはずの清川
さえ息を止めて魅入っている。

「……っら、こしっ!」
「ん……?」

 つぅ、と唾液がこぼれ落ちた
が、村越がそのままさらに唇を
乗せようとしてくるのを腕を突
っ張って拒んで、真っ赤になっ
ているはずの顔を逸らした。

「バカっ、しつっこいよお前!」
「そりゃそうだろうな。言った
ろ、キスしたかったって」

 ドキドキして仕方がないので
なるべく離れたいのに、村越の
腕は力強く達海を捕らえていて
びくともしない。
 あまりに激しいキスだったせ
いで見ていた熊田が近くにいた
湯沢の肩に顔を埋めて「なんな
のあのふたり……」と耳まで真
っ赤になりながら泣きそうにな
っている。
 その湯沢はと言えば、蟹の身
をつまんだまま石になっている
ようだ。

「ほらっ、みんな引きまくりじ
ゃんかっ!」
「恥ずかしいのは我慢してくれ
って言ったろう」
「って、俺は了解してませんー
っ!」

 恥ずかしい、恥ずかしすぎる!
 バカじゃないのか村越って!
という顔が表に出ているのに、
村越は露ほども気にしていない。
 鼻先やら頬、額にキスの雨を
降らせるばかりの村越は、いま
にもまたディープなキスをしよ
うかという勢いだ。

「村越さん、達海さんとデキて
たんスか……」

 呆然としている赤崎がぽつり
と呟いたので、村越がようやく
若手に顔を向けた。
 達海の体が村越にしっかりと
密着するように抱き締めたまま
で。

「そうだな、この人は俺のだ。
お前らにはやらん」
「ちょ、なんっ……なに言って
んの、」
「事実だろ?」
「そっ……!」

 そうだけど、そうなんだけど!

「……お前って最高に恥ずかし
いね……」
「褒め言葉か」
「ちげーよ!」

 こいつこんなに恥ずかしい男
だったのか、と達海が赤くなっ
ていると、清川がため息をつい
た。

「村越さん、初詣行くって言っ
てませんでしたっけ」
「あぁ、そういやぁ言ったな」
「初詣行くまえに姫始めしちゃ
いそうな雰囲気スね」
「……そうだな。お前ら、少し
ここで遊んでろ」

 え……、と若手が戸惑う前に、
達海が何か言う暇さえなく……
村越が達海を持ち上げた。
 この上なく恥ずかしい、いま
ゆるお姫様抱っこという持ち上
げ方で。

「え、えっ!?」

 落ちないように思わず首に抱
き着いたのがまずかった。
 村越の厳つい顔がふっと緩ん
で、また鼻先にキスをされる。
 達海がそれに顔を赤らめたの
を見ながら、村越が歩き出した。
 はっとしたときには食堂では
なく達海の部屋で、すでにベッ
ドに横たわっていた。

「えっ、なんで!?」
「姫始めだからな」
「待て待て待て待てっ! なん
だその姫始めって!」
「年が変わって最初のセックス
だろ」
「なっ、」

 セッ、と言葉を接げなくなっ
た達海に、村越が口づける。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ